問いのないところに学びはない。問いは、わからないから生まれるのではなく、わかっているから生まれる。学ぶことで、わかっている領域の境界線が少しずつ広がるに従って「未知の前線」もまた広がるのだ。では、問いを持ち続け、その問いから効果的な学びをするには?MBAを取らずに独学で外資系コンサルタントになった山口周氏が、知識を手足のように使いこなすための最強の独学システムを1冊に体系化した『知的戦闘力を高める 独学の技法』から、内容の一部を特別公開する。

「問い」のないところに学びはない

 知的戦闘力を高めるためには、インプットされた情報をいかに効率的にストックし、自由自在に活用するかが求められます。

 そのためには、恒常的に一定量のインプットを継続しつつ、それらをちゃんと整理しながら定着化させていくことが必要になります。

 ここで「どうやってインプット量を維持し続けるか」という点と「どうやって定着化を図るか」の2点が問題として浮上してきますが、この2点を解消するためには、常に「問い」を持ってインプットに臨むというのがカギになります。

 人の好奇心には一種の臨界密度があります。好奇心というのは要するに質問をたくさん持っているということですが、質問というのは、わかっていないから生まれるのではなく、わかっているからこそ生まれるものです。

 だから、学ぶことでわかっている領域の境界線が宇宙に向かって少しずつ広がっていくに従って、「未知の前線」もまた広がることになり、結果として質問の数はどんどん増えてくることになります。

「どうして、こうなっているんだろう?」「恐らく、こうなっているんじゃないか?」という問いを出発点にして、その問いに対する答えを得るためにインプットを行うと、インプットを楽しめるばかりでなく、効率も定着率も高まることで、結果的にストックも充実することになります。

 万能の天才と言われたレオナルド・ダ・ヴィンチは、膨大な量のメモを残したことで知られています。多くのスケッチや考察が書かれているのですが、そのノートの中の一節に、こういう文章があります。

 食欲がないのに食べると健康を害すのと同じように、欲求を伴わない勉強はむしろ記憶を損なう。

 あれほど多方面にわたって知的な業績を残した「知の怪物」が、勉強の最大のポイントとして「知的欲求=知りたい、わかりたいと思う気持ち」を挙げているのです。

 効率的な学びを継続するためにも、「問い」を持つことが重要だということはわかったとして、ではどうしたら「問い」を持てるのでしょうか?

 まずは、日常生活の中で感じる素朴な疑問をメモする癖をつけるといいでしょう。私の場合、常に小型のモレスキンの手帳を持ち歩いていて、「ふっ」と疑問に思ったことを書きとめるようにしています。

 この「ふっ」は、いつやってくるかわからない。したがって、会社に行くときも旅に行くときも飲み会に行くときも、必ずこの手帳を持ち歩くようにしているので、忘れてしまうとものすごく不安になります。

 手帳を持ち歩くのが億劫だという人であれば、スマートフォンのメモ機能を用いてもいいでしょう。私も自動車を運転しているときなどは、両手がふさがっているために、スマートフォンの音声メモ機能を使うことがあります。

 一方で、手帳ではなくカードを使うという方もいます。たとえば文筆家で雑誌「暮しの手帖」の編集長だった松浦弥太郎氏は、小型のカードを常に持ち歩いていて、ふと不思議に思うことがあると、その疑問をカードにメモしているそうです。そのカードを広口のビンに入れておいて、時期がくるとまとめて見直してみて企画を考えたり、調べ物をされたりしているそうです。

 手帳でもカードでも、使う道具はそれぞれの好みでいいと思いますが、大事なのは「ふっ」と思った疑問や違和感をしっかりと言葉にしたためる、その瞬間の気持ちをうまく掬い取れれば、それでいいということです。

 しかし、実はこれがなかなか難しい。というのも、ほとんどの「問い」は白昼夢のように瞬間的に心に浮かんですぐに消えてしまうからです。多くの人は、心に浮かんだ「問い」をメモしなさいと言われても「問いなんて浮かんでこない」と思われるのではないでしょうか。

 ですが、絶対にそんなことはありません。もしそう思うのであれば、それは「浮かんだ問い」をきちんと捕まえられていないからなのです。

 最初は難しいと思うかもしれませんが、繰り返しやっているうちに「問いが浮かんだ瞬間」に対して自分で意識的になってきます。この「心に浮かんだ問い」をきちんと手で捉える能力というのは、知的戦闘力の根幹をなす能力になるので繰り返しやって鍛えてほしいと思います。

なぜメモが大事かというと、メモが癖になると、“感じること”も癖になるからだ。
人より秀でた存在になる不可欠な条件は、人より余計に感じることである。
――野村克也『ノムダス 勝者の資格』