「常に最高の状態でいたい」。実現するのは難しいが、高い成果をめざす多くの人にとって共通する願いではないだろうか。なんと、それを実現するための科学的方法がついに解明された!
元マッキンゼーのエリートコンサルタントと、オリンピック出場の選手を何人も育ててきたトップコーチがその方法を解明した。彼らは、脳科学から、心理学、スポーツ科学まで、最新科学のリサーチを徹底網羅し、一流に共通するいい成果を出すためのパターンを探り当てた。
その方法を実践し、時間の使い方、休み方、習慣を変えれば、誰でも「自分を最高の状態」にすることに成功し、驚異の成果を連発できるのだ。
本連載では、その成果をまとめた話題の新刊『PEAK PERFORMANCE 最強の成長術』から、一部抜粋して「自分を最高の状態にする方法」を紹介する。
「ラディッシュ」か「クッキー」、どちらを食べた人が思考力に優れていたか?
1990年代半ばのことだ。
当時、ケース・ウェスタン・リザーブ大学で社会心理学を教えていたロイ・バウマイスター博士は、心と心の限界に対する概念を根本から覆してみせた。
あなたは困難な問題に粘り強く取り組んだ揚げ句、心が折れたことはないだろうか。たとえばダイエット中に、1日中ジャンクフードの誘惑に抗い続けたにもかかわらず、夜中についお菓子に手を出してしまったとか。
バウマイスターは、こうしたごく日常的な葛藤を解明しようと考えた。人間の知力や意志力がガス欠になるのはなぜか、どうやってガス欠になるのかを突き止めようとしたのだ。
この問題に着手するにあたって、バウマイスターは精密な最新型の脳画像診断装置を必要とはしなかった。
クッキーとラディッシュでこと足りたからだ。
バウマイスターとその同僚たちは、シンプルで効率的な実験を計画した。まず、チョコチップクッキーの香りが漂う部屋に、67人の大人を集めた。被験者たちが席に着くと、焼きたてのクッキーが部屋に運び込まれた。
皆の口のなかが唾液で満たされたところで、事態は急展開を見せる。被験者の半数は「クッキーを食べてもいい」といわれたが、残りの半数は「食べてはいけません」といわれたのだ。
さらに追い打ちをかけるように、クッキー禁止令が下された被験者にはラディッシュが配られ、「これなら食べてもいい」といわれた。
いうまでもなく、クッキー組はこの実験をやすやすとこなした。同じ状況におかれた者なら誰でもするように、クッキーを心ゆくまで味わうのみだ。それにひきかえラディッシュ組は、歯を食いしばって我慢した。
「彼ら(ラディッシュ組)はクッキーに強い関心を示した。皿に載ったクッキーをうらめしそうに見つめ、なかにはクッキーをつまんでにおいをかぐ者もいた」とバウマイスターは記している。クッキーの誘惑をはねのけるのは容易ではないのだ。
「ふん。それがどうした?」と思われただろうか。おいしそうなお菓子の誘惑にやすやすと抗える者などいようか、と。
だが、実験は後半にさらにおもしろい展開になる。ラディッシュ組の苦悩は終わらなかったのだ。
2つの被験者グループが食べ終えると、今度は解けそうで解けない問題が提示された(お察しの通り、ラディッシュ組は拷問のような苦しみを味わった)。ラディッシュ組はその問題を解こうと19回チャレンジしたが、8分経過したところで音を上げた。それに対して、クッキー組は、20分以上粘って33回もチャレンジしたのだ。
これほどの差が生じたのは、なぜか?
ラディッシュ組はクッキーの誘惑と戦うために「心の筋肉」(意志力)を使ってしまったが、クッキー組は「やる気の燃料タンク」が満タンだったため、全力で問題に取り組めたからだ。
バウマイスターは同じような実験を繰り返し行ったが、結果はいつも同じ。実験の前半で誘惑に勝ったり、難しい問題を解いたり、難しい判断を下したりして“心の筋肉”を酷使した被験者は、焼きたてのクッキーを食べるといった簡単なタスクをこなした被験者に、精神力が必要となる後半でどうしても勝てなかったのである。