「子どもに英語をマスターしてほしい!」――そんな願いを持っている親御さんは少なくないだろう。しかし、そんな人でも「英語がペラペラになればそれでいい」などとは思っていないはず……。むしろ、本当にわが子に身につけてほしいのは、世界のどこでも生きていける頭のよさ、つまり「本物の知性」なのではないだろうか。
実際、応用言語学や脳科学、教育心理学などのアカデミックな研究では「外国語学習の機会が、子どもの知力やIQを高める」といった知見が蓄積されつつあるという。
いま、こうした科学的根拠(エビデンス)に基づいた指導によって、子どもたちの英語力を着実に伸ばし、人気を集めている英語塾があるのをご存知だろうか。元イェール大学助教授の斉藤淳氏が代表をつとめるJ PREPだ。
本連載では、同氏の最新刊『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語――わが子の語学力のために親ができること全て!』から、一部抜粋して「ほんとうに頭がいい子」を育てるための英語学習メソッドを紹介する。
英語だけで学ぶと、かえって効率は下がる
「英語のためだけの英語学習」を避けるべき理由として、前回は「モティベーション維持」の観点からお話してきました。これにもまして重要な第2の理由が、ただ英語“を”学ぶよりも、英語"で"何かほかの知識を学んだほうが、学習効率が高くなるからです。
CLIL(Content and Language Integrated Learning:内容言語統合型学習)という学習法をご存知でしょうか。これで「クリル」と読みます。これは文字どおり、その他の教科のコンテンツ理解と言葉の習得を統合した学習であり、世界中の語学授業で取り入れられている手法です(Coyle et al.,2010)。
さらに外国語教授法の世界では、生徒が興味を持っている教科分野を第二言語で学ぶことで、新たな知識の獲得と語学習得を同時に実現させようとするCBI(Content Based Instruction:コンテンツに基づく指導法)という考え方も以前から提唱されています(Snow & Brinton,2017)。
アスリートの外国語能力が高くなるのは、コンテンツに基づいた語学学習の有効性を示す一例でしょう。外国人力士の日本語があそこまで流暢なのは、相撲という文化的コンテンツのなかで言葉を吸収しているからです。
J PREPキッズが毎年夏にイングリッシュ・キャンプを開催しているのも、「拡大版CLIL」を意図してのことです。山形の自然のなかで3泊4日、オールイングリッシュ環境で過ごすと、ほとんどの子どもたちがみごとに英語を話すようになります。
ただし、実際のCLILは、相撲やキャンプよりも、通常の教科学習やもう少し専門性の高い学びとセットで語られるのが一般的です。
J PREPではヘミングウェイの『老人と海(The Old Man and the Sea)』やハーバード大の経済史学者であるファーガソンの『文明(Civilization)』を読ませています。ほかにも古代ローマ史とか初等物理学、プログラミングの授業を英語でやったり、ラッセルの『西洋哲学史(History of Western Philosophy)』を読んだりもします。
先日、最高レベルのクラスでは、ウェールズ大学の国際関係論の大家E・H・カーの『危機の20年(The Twenty Years’ Crisis)』を素材に、「なぜドイツ・ヒトラー政権と交渉したイギリスは、戦争を防ぎきれなかったのか」について生徒たちがディスカッション(もちろん英語で)をしました。
興味を軸に学ぶということは、ただ「好きかどうか」だけではありません。本当に知的好奇心を刺激するようなコンテンツかどうかを吟味することと表裏一体なのです。