「人脈自慢」の人がなぜかパッとしない理由

ビジネス界では人脈は「多い」ほうがえらいかのような信仰がある。異業種交流会のような人脈イベントは盛り上がるし、積極的に人脈づくりをすることは、イコール、社会人・ビジネスパーソンとして努力していることのように語られる。多くの人と新しく知り合い、ごっそり名刺交換できれば、ちょっとした達成感も味わえる。しかし、コロンビア大学ビジネススクールで、人生やキャリアについての合理的な思考法を教えて人気になっているウィリアム・ダガンは、そんなことには意味がないという。どういうことか。コロンビアのエリートが集まる人気授業のエッセンスを凝縮し話題となっている書籍『超、思考法』から、その内容の一部を特別公開する。

じつは「数のゲーム」では成功できない

「ネットワーキング」(人脈づくり)という言葉を知っている人や、すでにそれを実践している人は多いだろう。

 2009年にニューヨーク・タイムズ紙に掲載された記事に、従来型のネットワーキングの典型例を見つけることができる。この記事を書いたローラ・ホルソン記者は、2008年のウォール街での株暴落後の経済危機の最中に行われた、2つのネットワーキング・イベントをレポートしている。

「経済がますます落ち込んでいる現在、友人はいくらいても困ることはない。企業は大勢の社員を解雇し、クビにならずに済んだ者は明日は我が身と戦々恐々としている。2009年は、ネットワーキングの黄金時代になりそうだ」

 この記事で紹介された2つのネットワーキング・イベントの1つは、シリコンバレーで毎月開催されているものだ。毎回、定員の200人がすぐにいっぱいになるほどの大盛況だ。参加者の主な関心は2つ。「不況はどれくらい長く続くのか」と「もし会社をクビになったら、助けてくれそうな人は誰か」だ。

 もうひとつのイベントの開催地はニューヨーク。女性エグゼクティブが17人、スパのある保養施設に集まり、「不安定な経済下でキャリアの見通しについて話し合う」というものだ。参加者のひとり、キャサリン・ウーはこう語る。「ネットワーキングは恋人探しと同じ。これは数のゲームよ。つまり、外に出てとにかくたくさんの人と会わないと、めぼしい相手に巡り合えないの」

 同じく、メディア企業に勤める32歳の女性ソーニャ・コスマンは、週に2回はキャリア関連のネットワーキング・イベントに参加していて、さらにはミートアップ・ドットコム、リンクトイン、フェイスブックなども活用しているという。こうしたツールを使うと、数百人、数千人とつながりを持てる。コスマンは言う。

「チャンスはどこに転がっているかわからない。仕事につながる出会いが待っているのはイベント会場かもしれないし、スーパーマーケットかもしれない。何に対してもオープンでなければならないの」

 一見すると、この「数のゲーム」は、第7感に合っていると思えるかもしれない(「第7感」とは、脳科学で解明されたひらめきをもたらす脳の力のこと。詳細は『超、思考法』を参照)。誰が仕事を紹介してくれるかなんてわからない。だからとにかくひたすら多くの人と会えばいい。失敗したってかまわない。あのトーマス・エジソンだって、白熱電球の発明に取り組んでいたとき、こう言ったではないか。

「私は失敗などしていない。1万通りのうまくいかない方法を見つけたのだ」

 しかし、エジソンは本当にこのような方法で成功を手にしたのだろうか?歴史を詳しく調べてみれば、一般的なイメージとは異なり、エジソンは実際には他人の発明を新しく組み合わせることに優れた才能を持っていたことがわかる。

 たとえば白熱電球の場合、電球そのものを発明したのはジョセフ・スワンであり、フィラメントを考案したのはルイス・ラティマーだった。エジソンがしたのは、この2つを組み合わせたことだった。