膨大な他人と知り合うのは効率が悪すぎる

 このときのエジソンの発明を、ネットワーキングに当てはめたとしたらどうだろう? あなたは正解を見つけるために、1万人と会いたいとは思わないはずだ。会いたいのはスワンとラティマーの2人だけだ。他の9998人に会うのは時間の無駄だし、何より気持ちをくじけさせる。誰だってそれだけ多くの失敗を続けたら、嫌になってしまうはずだ。だがネットワーキングを「数のゲーム」と見なせば、膨大な数を相手にしなければならなくなる

 私はこの従来型の「ネットワーキング」ではなく、必要な人だけとのコネクションをつくる方法として、「アイデア・ネットワーキング」というものを推奨している。「アイデア・ネットワーキング」では、「数のゲーム」ではなく、「アイデアのゲーム」をプレイする。重視するのは、量ではなく質だ。あなたはスワンとラティマーを、苦しむことなく、素早く簡単に見つけられるようになる。

「人脈自慢」の人がなぜかパッとしない理由話題の書『超、思考法』では、ここで紹介されている以外にもさまざまな思考法を紹介している。

 まず、あなたがアイデアを考えることから始める。そのアイデアは、あなたと、あなたが知り合いたい相手にとって面白いものでなければならない。このアイデアを思いつくことが、この「アイデア・ネットワーキング」でもっとも難しいステップだ。それ以降のステップは時間がかかるものの、はるかに簡単に行える。

 ニューヨーク・タイムズの記事でレポートされたネットワーキング・イベントでは、参加者は次のような質問をしていた。

・不況はどのくらい続くのだろうか?
・将来クビになったときに助けてもらうには、誰と知り合えばいいのだろうか?
・この不安定な経済下で、私の将来のキャリアはどうなるのだろう?

 これらは、尋ねる側にとっては切実でも、尋ねられる側にとっては面白くない質問だ。たしかにネットワーキング・イベントではよく出る質問かもしれないが、相手にとって面白くないことにはかわりがない。

 この手の質問に興味を持ってくれるのは、あなたのことが好きな人か、あなたがその仕事を得ることで得をする人だけだ。そんな人は、ごくわずかしかいない。仮に1万人と会ったところで、そんな質問に興味を持ってくれるのはせいぜい50人程度だろう。

 従来型のネットワーキングの本質は、「質より量」だった。「アイデア・ネットワーキング」では、「量より質」が重要になってくる。興味を持ってもらえない大勢の相手につまらない質問をするのではなく、戦略的に相手を選び、聞く側にとっても、聞かれる側にとっても興味深い質問をするのだ。

 もちろん実際に質問をするまでは、相手が本当にそれを面白がってくれるかどうかはわからない。だが、良い質問を思いつき、戦略的に相手を選んで質問をすれば、ほとんどの相手は興味を示してくれるはずだ。

(本原稿はウィリアム・ダガン著『超、思考法』から抜粋して掲載しています。「アイデア・ネットワーキング」のさらなる詳細については同書を参照)

ウィリアム・ダガン(William Duggan)
コロンビア大学ビジネススクール上級講師。フォード財団での戦略コンサルタントを経て、コロンビア大学ビジネススクールで、「第7感」について大学院課程とエグゼクティブコースで教えている。また、世界の企業の何千人ものエグゼクティブに「第7感」について講義を行っている。2014年、学長教育優秀賞を受賞。著書に『ナポレオンの直観』(星野裕志訳、慶應義塾大学出版会)、『戦略は直観に従う』(杉本希子・津田夏樹訳、東洋経済新報社)など。『戦略は直観に従う』が「strategy+business」誌で年間最優秀戦略書に選出されるなど、その独創的で精力的な活動は各界で高い評価を得ている。

児島 修(こじま・おさむ)
英日翻訳者。立命館大学文学部卒(心理学専攻)。訳書に『やってのける』『「戦略」大全』『勇気の科学』『自分の価値を最大にするハーバードの心理学講義』(いずれも大和書房)、『自分を変える1つの習慣』(ダイヤモンド社)、『競争の科学』(実務教育出版)、『ストラテジールールズ』(パブラボ)などがある。