東芝が満を持して“モンスターテレビ”を市場に投入する。10月に開催されたAV機器等の総合展示会「CEATEC JAPAN」で、その機能性の高さからデジタル機器専門家の耳目を集めた「セルレグザ」を、12月初旬に発売する予定だ。

 もっとも、一般消費者からの前評判は決して高くはない。一部の家電量販店店頭に試験的に並べられたものの、「モノのよさはわかるが、引き合いは弱い」(大手家電量販店バイヤー)という。

 “モンスター”と呼ばれる理由は何か。まず、IBM、ソニー、東芝が心血を注いで共同開発した高性能演算装置「CELL(セル)」を、テレビで初めて活用した。また、55インチの大画面には、メーカー各社が揃って採用し始めたLED(発光ダイオード)バックライトも搭載している。さらに、3テラバイトのハードディスクドライブと8個の地上デジタルチューナーを搭載し、約26時間分の番組を8チャンネル分録画できる。まさにハイスペックのてんこ盛りだ。

 価格も約100万円と“モンスター”である。1インチ換算では2万円近く、現在、国内の薄型テレビの1インチ平均単価は10月末時点で3200円(BCNランキング)だから、きわめて高額だ。

 東芝の狙いは何か。自社の持つ最先端の技術をすべて結集させたモデルを投入することでブランド力の向上を図ると同時に、主戦場を価格下落が止まらない30~40インチの中・小型から、技術力で先行する高性能モデルへとシフトさせたい──。モンスターテレビはいわば広告宣伝と割り切っているのが本音だろう。

 ちなみに国内薄型テレビ市場における東芝のシェアは18.8%(米ディスプレイサーチ調べ、2009年第3四半期、金額ベース)で、シャープ、パナソニックに次ぐ3位に甘んじている。

 じつは、この戦術には先駆けがいる。06年9月にはパナソニック(当時は松下電器産業)が600万円の103インチのプラズマテレビを発売、08年10月にはシャープも98万円の52インチ液晶テレビを投入し、大型化市場を切り開こうとした。それでもあくまで売れ筋は中・小型であり、泥沼の価格競争から抜け出すことはできなかった。

 いよいよ年末商戦が始まる。今年のボーナス支給額は過去最大の落ち込みが予想されている。モンスターテレビにとっては、いかにも分が悪い。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)

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