結論その2:「やりたいこと」に出会うには時間がかかる
イエール大学の組織行動学教授、エイミー・レズネフスキーは人々が自分の仕事についてどう考えているかを研究してキャリアを築いてきた。
レズネフスキーによると、その違いは以下の通り。
・労働は、生活費を稼ぐための手段
・キャリアは、より高度な仕事への道
・天職は、人生の重要な一部であり、自分のアイデンティティの重要な一部
レズネフスキーは、医師、コンピュータ・プログラマー、事務職などさまざまな職種の人々を調査した。その結果、大半の人はこの3つのカテゴリーに自分の仕事を積極的に分類していることがわかった。考えられる説明としては、職種によって差が出る、ということだ。
「“好き”を仕事にしよう!」に基づいて予測すると、医師や教師といった、なりたい仕事としてよくある職業に就いている人々は、自分の仕事を天職だと考える割合が高いのではないか。一方、憧れなど少しも持てないような地味な仕事の場合、それを「天職」とは呼ばないのではないか。
これを確かめるため、レズネフスキーは同じ職業で、ほぼ同じ職責の被雇用者のグループを調べることにした。その職業とは、大学の事務職員である。彼女自身が驚いたと認めているように、この事務職員のグループは、おおよそ均一に、労働、キャリア、天職に3分の1ずつに分かれたのだ。つまり、職種だけで、人がどれくらい自分の仕事を楽しめているのかが予測できるわけではないようだ。
とはいえ、「“好き”を仕事に」の支持者なら、大学の一般事務職にはさまざまなタイプの人が集まってくるだろう、と言うかもしれない。高等教育にやりがいを感じて応募した人は、結果的に仕事に愛着を感じるだろうし、安定した待遇の良い仕事だからという理由で偶然この職に就いたために、そこまでやる気のでない人もいるだろう。
レズネフスキーはここで終わらなかった。彼女は「なぜ事務職員たちがそれぞれこんなに異なった見方をするのか」を調査した結果、ある発見をした。
自分の仕事を天職だと考える職員の最大の特徴は、その仕事に費やした年数だった。職員の経験が長ければ長いほど、自分の仕事を心から好きである傾向が強かったのだ。
レズネフスキーの研究によると、もっとも幸福で、もっとも熱心な職員は、「やりたいこと」を追い求めた結果として職に就いた人ではなく、自分の仕事のスキルが上達するまで長い時間をかけてがんばってきた人であった。
よく考えてみると、これは筋が通っている。
経験を積むと、自分のスキルを上達させるための時間ができ、そこから自分の能力に対する自信が培われる。またその間、同僚と強い絆を築き上げ、自分のする仕事が他人の役に立つ例をたくさん見ることになる。ここで大切なのは、この解釈は合理的ではあるが、自分の仕事を「やりたいこと」と一致させればすぐに幸せになれる、とする「“好き”を仕事にしよう!」には反することだ。