結論その3:「やりたいこと」は、スキルアップが生み出す

「やる気に関する驚きの科学」と題する有名なTEDトークで、ダニエル・ピンクは自著『モチベーション3.0』について、人間のモチベーションについて研究を続けたここ数年の成果を語った。

「いいですか、全然違うのです。科学が解明したことと、ビジネスで行われていることは食い違っているのです」

 ピンクが根拠とした科学によれば、モチベーションは、作業に対してやる気を本質的に感じさせるような、次の3つの心理的欲求を満たさなければならない、とされている。

1.自律性 Autonomy 自分の労働時間を自分でコントロールしている、自分の行動は重要である、という感覚

2.有能感 Competence 仕事のスキルが上達している、という感覚

3.関係性 Relatedness 他人とつながっている、という感覚

 3番目の欲求は当然であろう。職場の人と親しい関係にあれば、より仕事が楽しめるようになるだろう。より面白いのは最初の2つの欲求である。

 例えば、自律性と有能感は明らかに関連がある。

 大半の仕事は、スキルアップすればするほど、そこから生じる達成感だけではなく、職責に対する自由(自分でコントロールできる)が報酬として得られるのだ。このような結果は、レズネフスキーの発見を説明するのに役に立つ。おそらく、より経験を積んだ事務職員のほうが自分の仕事を楽しんでいる理由の1つは、この楽しみを生み出す有能感や自由を築き上げるには時間がかかるということである。

 ところで、同じくらい興味深いのは、この基本的な心理的欲求に含まれていないことである。

「自分の仕事を、前もってあるはずの『やりたいこと』に一致させることが、モチベーションを高めるために重要である」という判断を、科学者たちが下さなかったことに注目すべきだ。

 対照的に、科学者たちが見出した特性は、より一般的なものであり、特定のタイプの仕事について限定するものではない。

 スキルが上達するまで一生懸命働けば、さまざまな職種に就くほとんどの人が、有能感と自由を手に入れることができる。

 このメッセージには「好きなことを仕事にしよう、そうすればすぐに幸せになれる」というようなトキメキ感こそないものの、確かな真実の響きがある。

 つまり、自分にふさわしい仕事を見つけることより、今携わっている仕事にふさわしい働き方をすることのほうが重要なのだ。