14万人の社員と「あるべき姿」を共有する
こうして、この中期経営計画に自信をもった私は、本社のCEOに就任したときに、これを全社に導入することを決定しました。そして、これが、その後遭遇したリーマンショックという想定外の危機をチャンスに変える大きな働きをしてくれたのです。
CEO就任後、私は、すぐさま「あるべき姿」として「名実ともに世界ナンバーワン企業になる」と掲げ、定量目標として「ROA(総資産利益率)6%」、定性目標として「成長体質と増益体質を併せもつ事業体への変革」を明示。全世界の子会社CEOと膨大なコミュニケーションを取りながら、5年の中期経営計画を策定しました。
なかでも、私が重点課題として注力したのが、全世界に点在する工場の整理・強化でした。ファイアストンの買収をはじめ、事業を大きく拡大してきたがために、国際競争力が低下した工場を抱えたままだったほか、今後の収益の柱を担うべき戦略商品を生産する工場を新設する必要に迫られていたからです。つまり、全世界の工場を「リーン&ストラテジック」(連載第21回参照)という方針のもとに再編する必要があったのです。しかも、できるだけ速く……。
ところが、これが難題でした。
なぜなら、足元の需要に応じるために既存の工場をフル回転させている状況において、工場再編を進めることによって、万一、供給量を落とす事態を招けば、その間隙をついて、一気に他社にシェアを奪われ、回復不能になるおそれがあるからです。ディストリビューターにすれば、ある会社で欠品が生じれば、別会社の商品を扱うようになるのは当然のことです。
だから、統廃合と新増設は同時に進めなければならないのですが、どうしても統廃合が先行して、新増設が遅れがちになるのが現実。このタイムラグが命取りになりかねないわけです。そのため、工場再編には慎重にも慎重を期す必要がある。できるだけ速く成し遂げる必要があるのに、それができないジレンマを抱えたまま中期経営計画を策定するほかなかったのです。