「目先の危機」ではなく、「危機の先」に目を凝らす

 ところが、CEO就任3年目となる2008年にリーマンショックが起こります。
 それに伴い、タイヤの需要も大きく減少。社内外は騒然としました。そんななか、私のもとには「これだけのことが起きたのだから、中期経営計画はご破算ですよね?」という質問がたくさん寄せられました。

 しかし、私は「もちろん、状況変化が起きたのだから修正は加えるが、基本的な骨組みは一切変える必要がない」と明言しました。

 なぜなら、中期経営計画のゴールである「あるべき姿」は、リーマンショックが起こったから変わるような性質のものではないからです。たしかに、リーマンショックは大きな変化ではありますが、「経営環境は変わる」のは中期経営計画の前提条件。その「環境変化」に適応する必要はありますが、「あるべき姿」を変える必要はない。「環境変化」によってコロコロ変えるのならば、そもそもそれは「あるべき姿」ではなかったと言うべきです。

 むしろ、私は、リーマンショックを「100年に一度の危機」とやたらと騒ぎ立てる風潮に違和感を感じていました。もちろん、足元の需要はドーンと落ちていますから、目先の業績は苦しくなるのは目に見えている。それは、たしかに危機です。しかし、目先の危機に気を取られるのではなく、危機の先に起こる「自社の危機」をこそ恐れなければならない。そして、その視点から現実を凝視したとき、リーマンショックは「千載一遇のチャンス」だったのです。