20年前にはヒエラルキーの下層に位置していた
産業が今や注目の花形産業に!?

ちきりん 今、話を聞いていて思ったんですけど、構造的に、世代とか時代って上手くシフトしていくようになっている面があるなと。

 たとえば、今から20年くらい前に藤野さんが野村アセットマネジメントに入った時期って、株式市場の主役は鉄鋼株とか総合電機株ですよね。そして、当時40代くらいの最も実力のあるアナリストがそういう業界を担当しますよね。一方、若い人にはそういう主役のセクターは担当させられないから、「お前は中小型株でもやっとけ」という風になったわけですよね。

 実は、『起業のファイナンス』などの著作がある磯崎哲也さんと対談したときも同じようなことをおっしゃっていて、シンクタンクにいらっしゃった時に、上の人は皆、鉄鋼とか電機などの業界を担当していて、「お前は、ITでもやっとけ」ということになり、それがネット業界とかITの企業とかに興味を持つきっかけになったということでした。

 これはよく考えると非常に面白いことで、40歳くらいになり、企業の中で一番実力が出てくると、その時代の花形産業の担当を当然するわけですよね。ところが、それって終わりかけている業界の可能性がある。一方、若手は花形じゃない産業を担当させられるわけですが、それが結果的には将来勃興する産業を勉強できる機会になる、構造的にそうなっているんじゃないかと思いました。

藤野英人(ふじの・ひでと)レオス・キャピタルワークス取締役・最高投資責任者(CIO)。 1966年富山県生まれ。90年早稲田大学卒業後、国内外の運用会社で活躍。特に中小型株および成長株の運用経験が長く、22年で延べ5000社、5500人以上の社長に取材し、抜群の成績をあげる。2003年に独立、現会社を創業し、現在は、販売会社を通さずに投資信託(ファンド)を直接販売するスタイルである、直販ファンドの「ひふみ投信」を運用。ファンドマネジャーとして高パフォーマンスをあげ続けている。ひふみ投信 http://www.rheos.jp/ ツイッターアカウント@fu4

藤野 なるほど、そういわれてみるとおもしろいです。確かにそうかもしれないですね。

 実は、私が入社して3~4年経ってファンドマネージャーの仕事に慣れてきたころ、先輩に「君もそろそろ、中小型株みたいな女、子供のセクターはやめて、そろそろ総合電機とか鉄鋼とかにいかないとね」というようなことを言われたんです。これは総合電機や鉄鋼が花形だ、と思っていないと出ない言葉ですよね。

 これを言われて僕はすごくショックを受けました。まず女性に失礼だし、子供にも失礼。さらに、中小型株の企業に失礼だし、僕にも失礼ですよね。なんとデリカシーのない発言だろうと。

ちきりん 学生本人が就職でベンチャー企業に入ろうとしても、親が「もっと一流の大きな会社に行きなさい」というのと同じ感覚ですよね。大きい企業がいちばんいいという固定観念がある。

藤野 そうです。その頃の金融業界は、ソニーなどの総合電機を担当しているアナリストが全アナリストのトップで、次に通信セクターが続き、ずーっと下がって中小型株はヒエラルキーの一番下という雰囲気が今よりもずっと強くありました。

 僕自身も過去には、そういう既成の枠の中でモノゴトを見ていた側の人間なんですけど、中小企業の創業者と接しているうちに、僕は、ちきりんさんが本で書かれたように「自分のアタマで考える」ようになっていったんです。

 それは、既成の価値観でモノゴトを見るのではなくて、一度全てを疑って、ゼロベースで考えて自分なりの結論をアウトプットしていくという姿勢です。
少なくとも起業して成功していく人たちは皆「自分のアタマで考える」人たちなんです。そんな人たちと真剣にやりあってきたということが僕にとっては重要な経験でしたね。

ちきりん なるほど。

藤野 そして、この20年間は日経平均が右肩下がりの厳しい経済環境が続いていたけど、そうした中でも自分のアタマで考えている人たちが結構たくさんいて、そういう人たちが新しい市場や産業を切り拓いたりしてきたということが現実としてあります。

ちきりん 経営トップの人が、自分より若い役員や部長より圧倒的に思考が大胆で柔軟だということが結構あるじゃないですか。

 社長が一見常識外れなことをガンガン言い出したり、リスクをとったりする。周りの人は「そんなことをしたら危ない」とか、「お金がかかる」とかいろいろ言うんだけど、社長がトップダウンでガーとモノゴトを進めていくパターンの会社にこそ、結構いい会社がありますよね。それって、まさに自分の頭で考えているんですよね。

 過去の常識にとらわれず、特に成功体験さえ切り離して、未来を柔軟に考えられる人がどんどん出てきている。そういう経営者や会社を身近に見ている人にとっては、日本の将来はとても明るいというか、暗い感じは全然しないですよね。

藤野 そうですね。創業者が率いている企業などは、自分のアタマで考えている柔軟な経営者が多いですね。一方で、今の大企業の社長のほとんどはサラリーマンなので、創業者と違って「自分たちの存在意義は何か」という根本的な問題を考えずに、どちらかというと事業活動の成果を上げて出世して社長になった人たちです。結果的に、今、根本的なところから自分で考える習慣がない人たちが多くなってきているという感じがします。

 だから、個人が何を見るかによって日本って、見え方が全然違うと思うんです。大企業とか大きなメディアというサークルの中だけで付き合いをしている人たちには、日本経済は右肩下がりの風景にしか見えないと思います。そういう人たちが作っている新聞記事やテレビ番組を見ていると、「日本って20年間ダメだったね、今後も暗いね」となるんだけど、僕から見るとそういう面ばかりでなく、日本には明るくて可能性がある面も十分にあります。