感性を磨く「きっかけ」の1冊を
私が『世界美術全集』(平凡社)をきっかけに美術の虜になったように、みなさんにもぜひ、そのような1冊と出会ってほしいと思います。
しかし美術は、書籍で勉強するのがとても難しい分野だといえます。真剣に美術の勉強をしようと考えるならば、『美術全集』を買うのが一般的でしょう。五感をより浮動させるために、できるだけ大きな判型で勉強をしたいと考えるのが自然ですが、どんなに大きな判型の本でも、所詮は印刷物。現物のテクスチャーまでを読者に伝えることはできません。書籍で美術を学ぶには、どうしても限界があるのです。
そのようななか『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』は売れ行きが大変好調だと聞いています。私も読ませていただきましたが、この本は作品の魅力を「エピソード」で補完していると感じます。作品そのものの説明はもちろん、その作品が成立するに至った裏にある歴史、政治、宗教、哲学などが詳細に描かれている。美術の面白さとともに、歴史の面白さをわかりやすく伝えている本だと思います。
『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』を読んで、「ああ、美術史って面白いんだな」と感じる人もいるでしょう。ただ「面白いんだな」で終わるのではなく、そこから先、さらに深く学んでみたり、実際に美術館に行ってみたり、他の分野も学んでみたり……そのようなムーブメントが起こることを願っています。
きっかけは何でもいいのです。日本のビジネスパーソンが今よりももっと美術に興味を持ち、「好きな絵」を自分で選べる人が増えてくれることを期待しています。
先ほどお話したように、リーダーの仕事とは「好きな絵」を選ぶようなもの。「情報」に惑わされ過ぎず、決断の軸を外に求めない、そんなリーダーシップを持った人材が増えてくれることを願っています。
1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。現在、同社のシニア・クライアント・パートナー。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。
著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『外資系コンサルの知的生産術』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『天職は寝て待て』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『外資系コンサルが教える 読書を仕事につなげる技術』(KADOKAWA)など。神奈川県葉山町に在住。