潜在競合を無視した「都合のいい戦況解釈」にご用心

村上:よく思うことやけど、誰かと比較してベンチマークした資料を見ると、外部の人が見た時のベンチマークの対象企業と、内部の人が見た時のベンチマーク企業ってけっこうずれるんですよ。
典型的な話で、小さい会社ばかりをベンチマークしているんだけど、「潜在競合はAmazonなんだけどな……」ってことが結構あちこちで起こっている。

朝倉:自分たちがベンチマークしていないところについて、外部の人があまりにもしつこく訊いていると、中の人が終いには怒り出すなんてこと、ありますね。

村上:結局いつものベンチマークに戻って「悪くないね」で終わらせる。それじゃ、ベンチマークする意味がない。

朝倉:自分たちにとって、都合のいい戦況解釈をしている例はよくありますよ。自分の経験でも思い当たる節が多々あります。
例えば、新規参入してきた海外のSNS勢を相手に苦戦している最中で社内外への状況説明を求められるとしましょう。こうした局面でどういった発想が出てくるかというと、都合のいいセグメンテーションをし出すんです。例えば、「コミュニケーションには2軸ある。ひとつの軸はフロー型とストック型。もうひとつの軸は匿名制と実名制」「このサービスはフロー型で匿名。あのサービスはストック型で実名。最近出たメッセンジャーはフロー型で実名」「それに対して自分たちのサービスは全方位をカバーしており、全体で見ると競合はしていないんだ」といった感じ。
これ、整理としては正しいんですよ。ただ一つ、このセグメンテーションには致命的な問題がある。何かと言うと、この整理が自分たちの現状把握や意思決定において全く意味をなしていないということですね。整理としては正しいのだけれど、「だから大丈夫です」という結論を前提に組み立てられている。だから都合の良い戦況解釈なんです。
外に向かって広報上発信するのは、まあ仕方ないと思うところはあります。ただ、言っているうちに当の本人たちまでが信じてしまったら仕方ない。

村上:オペレーショナルなことで変えられるようなことって、工数が少ないじゃないですか。一方で、戦略的かつ組織的な変化、ステージチェンジを伴う大きな変化って、非常に工数がかかる。だから、Amazonが参入して来て「急に競合が変わりました」ってなった時の備えが予めできてないと、いざという時に変われない。
ただ、ステージチェンジへの備えって工数がかかるだけに、どうしてもできないんでしょうね。備えるって言っても「そんな先のこと、今言われても他にやることあるし……」と先送りされてしまうんだから。