最善の形を目指す生き方へ

人生から何を与えてもらうかではなく、<br />人生に何を与えることができるか松山 淳(まつやま・じゅん)
企業研修講師/心理カウンセラー 産業能率大学(経営学部/情報マネジメント学部)兼任講師
2002年アースシップ・コンサルティング設立。2003年メルマガ「リーダーへ贈る108通の手紙」が好評を博す。読者数は4000名を越える。これまで、15年にわたりビジネスパーソン等の個別相談を受け、その悩みに答えている。2010年心理学者ユングの性格類型論をベースに開発された国際的性格検査MBTI®の資格取得。2011年東日本大震災を契機に、『夜と霧』の著者として有名な心理学者のV・E・フランクルに傾倒し、「フランクル心理学」への造詣を深める。ユング、フランクル心理学の知見を活動に取り入れる。経営者、中間管理職など、リーダー層を対象にした個別相談、企業研修、講演など幅広く活動。

 フランクルは絶望が支配するナチスの強制収容所を生き延びた人物です。

「人生から期待できること」がほぼ皆無の状況で、「生きる意味」を見失いませんでした。

 さらに、「人生が何をわれわれから期待しているか」を問う思考法によって、他者に生きる力を与え続けました。

 フランクルは自殺企図をもったふたりの男の例をあげています。ふたりは「もはや人生から何ものも期待できない」と絶望し自殺しようとしていました。

 ですが、フランクルとの対話によって、ひとりは外国で待つ子供の存在を、ひとりの科学者は書きかけの未完の書があることを思い出すことで「生きる意味」を発見していったのです。

 逆に、「人生から期待できること」が無になり、病に倒れ亡くなった作曲家の例もあげています。

 その作曲家は、夢に現れた「ある声」の存在に戦争集結の具体的な日にちを教えられます。戦争終結とは強制収容所からの解放を意味します。「ある声」が教えてくれた集結の日は1945年5月30日でした。フランクルが彼と語り合ったのは2月のこと。

 しかし、「ある声」の予言を無視するような戦況が続きます。すると5月29日に彼は高熱を出し、5月30日にせん妄状態(意識障害が起こり混乱した状態)となり、5月31日に亡くなったのです。発疹チブスでした。

 彼は「人生から期待できること」を見失い、生きる力まで失ってしまったのです。

「人生から期待できること」は「生きる力」を与えてくれますが、期待できることがなくなった時に、心に大きなダメージを与えます。

 ここで話を「キャリアの限界」に戻します。

「俺の会社人生もここまでか」と虚しさとともにキャリアの天井を自覚する時、人生に期待してきたことがひとつ消えます。その時、会社や仕事にとらわれず、「人生が自分に期待していることは何か」と問うてみるのです。すると心の視野が広がり、その他の可能性、つまり、それまでの人生で考えられなかった「新たな生きる意味」に考えが及ぶようになります。

 キャリアの挫折を味わい、自分の出世のために部下を道具のように扱ってきた上司が、後進を育てようと親身になるケースもあれば、家族を顧みなかった仕事人間が、妻や子どもと過ごす時間を増やそうと努力するようになるケースもあります。

 私たちは人生に対する見方を変化させ、生き方を変えることによって、心の豊かさを手にすることができるのです。