サイバー空間を実際に存在する「場所」と考えなさい
――正直に言っても困ることがないということですね。進化が速すぎる領域だけに、そうした直言が求められていますね。
つまりそういうことですね。たとえば、私は3ヵ月前アメリカの上院情報問題特別調査委員会に招待されました。今、ニュースになっているロシア問題を調査している委員会です。私がその委員会に呼ばれたのは、ネット上での行動操作に関する科学を説明してほしいと言われたからです。私は、そこで最初に以下のような考えを話しました。
もしあなたをオンラインで操作しようとしたら、どうするのか、考えるべきということです。そのために最初にやるべきことはサイバー空間を「場所」として認識する、というパラダイムシフトが必要だと主張しました。人が実際にその空間に行くと考えるべきなのです。
本書で言えば、子どももそこへ行って、その空間で子どもたちが育つと考えるべきなのです。
2016年NATOはサイバー空間をオペレーション領域と宣言しました。その空間に軍隊がいるということです。軍隊はそこにサイバー空間の軍事構造を作ったのです。普通は軍事が最初で次にビジネスそれから社会の順です。軍隊はこのスペースを概念化し、将来の戦いの場を陸、海、空そしてコンピューターネットワークとしたのです。ですから、最初のパラダイムシフトはサイバー空間を「場所」と認識したことです。
それが「場所」であると理解すれば、次に環境心理学を考えなければなりません。環境心理学は環境が行動に及ぼすインパクトを研究する科学です。非常に劣悪な家庭環境で育つと発育中の子どもの行動に影響を及ぼすことは知られています。
しかし、発育中の子どもがサイバー空間のどんな環境下でどう成長するのか、彼らの行動がどのように変化するのかを考えなければなりません。オンライン脱抑制効果(ネット上でより寛大になる傾向のこと)やネット上の匿名性、サイバー空間に精神的に没頭すること、など複雑な要素がからみあって、人間の行動を変えてしまうことがわかっています。