親は、毎日5000回も赤ちゃんに触れる機会を失っている
――最近幼児が泣くじゃくってうるさくすると、親は叱らないでスマートフォンやゲームを渡して静かにさせる親が増えてきたように思います。それで一応幼児は静かになりますね。親は一生懸命子どもを静かにさせようと努力しません。
エイケン スマートフォンやゲームは親にとっては非常に便利なものです。子どもにとって根本的な問題は、表面的には静かにして行儀良くしているように見えますが、子どもは自分を制御することを学んでいないのです。親は子どもがレストランで静かになるので、自分はいい親だ、子どもは反社会的な行動をしているわけではないと思っています。子どもは自分の行動を抑えることを学んでいません。親がしていることは子どもの注意をそらしているだけです。子どもは親の言うことを聞くことを学んでいません。
子どもの脳内で起きていることは、表面的には静かにみえるもので実際は刺激され続けていることです。スクリーンを見て脳が刺激されています。子どもが学校に行く年齢になると、子どもが授業中うるさくしたときに教師が静かにするように叱っても、子どもは自分の行動を抑える能力を持っていません。こういう子どもたちをいかにコントロールするのが非常に難しいか、という報告が教師から出てきています。子どもが自制心で静かにして学習に集中することができなくなっているという報告です。
もう一つは本でも指摘しましたが、この時代に親に対して、赤ちゃんはアイコンタクトが必要であることを言わなければならないのは、どこかおかしい感じがするということです。人が1日にスマートフォンを見る回数は2000回足らずです。最新の統計を調べなければなりませんが、スマートフォンを触るのは1日に平均5000回です。つまり赤ちゃんがいる親はスマートフォンを触っている間、子どもの方を見ていないことになり、5000回は子どもに触れていないことになるのです。
これは大問題です。子どもが親とアイコンタクトをするのは親子の絆が形成される重要なプロセスです。親がスマートフォンばっかりいじり、子どももスマートフォンを与えられて絶えず注意をそらされていれば、親子はアイコンタクトをしていないことになります。
――この非常に重要な発達段階を失っているということですね。
エイケン そうです。一人前の人間になるプロセスで重要な時期を失っていることになります。この時期を再度経験することはできません。発達の黄金期を二度と経験することはできません。アメリカの学校から報告されることで最も嘆かわしいことは、5歳の子どもが学校に来て最初に教師が教えることが子どもを椅子に座らせて、輪になってお互いを見てアイコンタクトすることであるということです。これは社会にとってショッキングなことです。
ジョン・ボウルビーの愛着理論によると、小さい子どもが親とアイコンタクトをしなければ、親子の絆が損なわれるということです。絆が損なわれると、そういう子どもは一生の間、他人との意味のある関係を持つのに苦労します。親との絆が損なわれると、兄弟や友人との絆も損なわれます。大人になってからもずっと意味のある関係を持つことに苦労します。