わかっちゃいるけど、
営業スタイルを変えられない!

 そもそも、アナログ放送と同じように代理店経由でデジタル放送の契約を獲ろうというのが無理な相談だったと私は考えています。
 デジタル放送は、アナログ放送とはスクランブル解除の方法がまったく違うからです。
 アナログ放送はデコーダーでスクランブルを解除しましたが、デジタル放送ではテレビの横面や背面に差し込まれているB-CASカードの番号によって、契約しているテレビを特定し、スクランブルを解除する方式に変更されたのです。
 この変更はWOWOWが営業スタイルを変えなければならないことを意味していました。

 アナログ契約ではデコーダーを購入してもらう場が必要でしたから、電気店が機能していました。しかしデジタル契約では、テレビに内蔵されたカードの番号は店頭でわからないため契約が電気店で完了しないという事態が起き始めていました。

 代理店ルートではデジタル契約を完了しにくいことが分かった以上、顧客がWOWOWとダイレクトに契約するルートを構築することが急務でした。しかし一方で、2011年までアナログ放送も行われることになっていたので、代理店を活用した契約獲得も継続しなければなりません。

 消費者のデジタルテレビへの買い替え状況をウォッチしながら直接契約を拡大し、代理店を活用した獲得方法とのバランスをとりながら加入者を増やしていくことが求められる難しい期間でした。

代理店ルートには恩義があった

 家電メーカーの販売店経由で加入する「代理店ルート」は、開局以来WOWOWの加入を獲り続け、経営を支えてくれた恩義のあるルートであり、業界との間には密接な関係がありました。
 ですから、WOWOWの当時の営業部門は家電メーカーや系列販売店に向いた組織が作られていました。

 さらにアナログ放送が終了するにはまだ時間があり、ドラスティックな直接契約への変更を図るのにはリスクもありました。外的状況の変化をわかっていても、経営者が変えろと掛け声をかけても、日々の営業マンの動きや営業手法は簡単には変わりません。
 結果として、WOWOWの直接契約への移行はスムーズには進まず、デジタルの加入はなかなかはずみがつきませんでした。

(続く)