タイトルに込めた思い

検察も警察も権力に無力。カネの力で悪を討つしかない

永瀬 今回の作品ではタイトルにも非常に苦労しました。

加藤 決めるまでに100本ノックのようなミーティングもやりましたね。永瀬さん、ダイヤモンド社で担当していただいている今泉さん、僕の3人それぞれ何十本も案を持ち寄って。でも、それらの案っていま見るとかなり面白いですよ(笑)。

永瀬 いや苦労しました。でも、『特捜投資家』いいタイトルでしょ。不正企業を取り締まるべき地検特捜部や警察捜査二課は、悲しいかな開店休業の状態。本作では、「その当局に替わりて不義を討つ」のが強欲な投資家なんですが、その手法は、読んでのお楽しみということで。

加藤 今年6月に大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞(旧・大宅壮一ノンフィクション賞)の授賞パーティに出席したんですが、そのとき受賞者である森功さんと清武英利さんが、奇しくも同じようなことをスピーチでおっしゃってました。森さんの受賞作は『悪だくみ──「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』、清武さんは『石つぶて──警視庁 二課刑事の残したもの』で、いずれも公権力の闇に迫った力作です。おふたりは異口同音に、一国の首相の疑惑や官僚の不正、大企業犯罪に挑むべき捜査機関が今やほとんど機能していない、と述べられていました。

永瀬 なるほど。

加藤 かつて、厚生省(現・厚労省)のトップ、厚生次官の汚職を摘発した警視庁捜査二課は、年々、汚職事件(官僚や政治家の贈収賄事件)の検挙数が激減していき、安倍政権下の2014年には年間摘発ゼロになったと。

永瀬 東京地検特捜部も東京医大の裏口入学を追ってはいるものの、本当に追及すべきは森友・加計問題とか東芝粉飾決算のような事案でしょう。そうした重要な事件にメスを入れないのは政権への忖度を感じますよね。そもそも裏口入学の件だって、政権に弓を引いた文科省前事務次官への意趣返しと見る向きも多いですし。

検察も警察も権力に無力。カネの力で悪を討つしかない

加藤 モリカケ問題に加えて、安倍氏と親しい記者にレイプされたと女性が被害を訴え、刑事告訴したのに検察が不起訴にしました。海外メディアは最近、安倍政権のことを、「クローニズム(縁故主義)」と言って批判しています。

永瀬 この小説は、地検特捜や警察捜査二課といった捜査機関もメディアもメスを入れない不正に、投資家たちが立ち向かう話ですからね。『特捜投資家』というタイトルは、悪いヤツらをボコボコにできるのはもはや、カネの力しかない、という強烈な皮肉でもあります。

加藤 小説のなかでも政権とクローニーな関係にある企業の描写が出てきます。戦後、焦土から立ち上がった起業家たちは、政治家や官僚にすり寄ることはしなかった。ソニーやホンダが自らの努力と技術によって、あるいはクロネコヤマトの小倉昌男さんにいたっては、国と戦って、宅配便という新たなサービスを開拓した。政治家・官僚は自分たちの権益のため、優れた新興企業に難癖にも等しい規制を二重、三重にかけて足を引っ張ってきた勢力です。世界に羽ばたこうとする勇敢な起業家を後ろから鉄砲で撃つようなことを散々やってきた。そういうことを知っている、日々真面目に働いている人たちからすれば、政治家や役人にすり寄り甘い汁を吸っているヤツらなんて、ありえません。そういう意味では、読者の方にしっかり溜飲を下げていただける作品になりましたね。

永瀬 ありがとうございます。しかし、加藤さんも『週刊現代』や『フライデー』の編集長をされていて、世の不正を暴くスクープを数多く放っていたわけですけど、それは義憤に駆られてやってたんですか?

加藤 いやいや僕は週刊誌が売れればいいと思ってただけで(笑)。

永瀬 え? だとすれば、まさに強欲な「特捜編集長」(笑)。

加藤 ……(苦笑)。

永瀬 ともあれ、タイトルも内容も充実した面白い作品になったと自負しています。是非一人でも多くの方に読んでいただきたいと思います。

(終わり)