困難を極めた制作過程

 しかし、それからが万里の長城の連続だった。
 なにせレシピ本編集「若葉マーク」。しんどいことも多々あった。
 しかし、志麻さんの処女作を本当に面白くて役に立つ本にしたいという思いが支えた。
 この著者は、これから相当、面白い存在になる。
 その処女作を担当するのは、世界でひとり、私だけ。その気概を持って臨もう!!と。

 まったく未知な市場なので、数多くのレシピ本を手がけてきたその道のプロたちや等身大のワーキングマザーにも企画に入ってもらった。
 その結果、この本は従来のレシピ本とは真逆のアプローチをとった。
 それは、「伝説の家政婦」志麻さんのライブ感を活かした「動的な」本づくり
 A家からE家まで5軒に出向く志麻さんを活写し、実況中継方式で、3時間で15品もつくる志麻さんが、いかに厳しいアウェイ環境で料理をしているのかを描いた。

 私たち編集チームも、タクシーで志麻さんと移動。その家、その家で、コンロも違えば、家族環境も違う。当然、冷蔵庫の大きさも入っている食材も違う。調味料もたくさんあるこだわりの家もあれば、まったくない家もあった。

 なかには、台所が狭く、縦の2コンロで、火力が弱すぎる家があった。
 しかし、そんなときにも志麻さんは動じない。
 緊急事態でも、志麻さんは、コンロ以外の代替火力として、鍋の時に使うあの携帯コンロを引っ張り出してきて、「3つのコンロ」を同時に使いながら、難局をしのいでいった。
 ピーマンと豚肉だけでつくる志麻さん式酢豚を、弱音を吐かずに、淡々とつくっていたシーンが忘れられない(うまいんだな、これが!)。
 いやーすごいなあ!
 こういう状況でも泣き言ひとつ言いたくなるだろうに、絶対に弱音を吐かない。他責にしない。すべてを受け入れ、淡々と調理する。

 志麻さんを取材していると、いつも勉強になる。

 さらにすごいのが、探していた調味料がなくても、必ず身近な調味料を組み合わせて代替調味料に変えてしまう志麻さんマジック! 依頼主の方と同時に、私もいつも脱帽してしまう瞬間だ。