「日本史が本当に苦手な人」向けの本が、じつは無かった
『東大教授がおしえる やばい日本史』は、じつは滝乃さんにとって挑戦的な内容だったという。過去の担当作との違いを聞いた。
『やばい日本史』を作るきっかけになったのは、本書の監修者である本郷和人先生の信念でした。
本郷先生は東京大学史料編纂所教授。歴史のプロです。そんな本郷先生はつねづね「歴史の地盤沈下」に危機感を抱いていました。学校で習う暗記中心の歴史教育によって「歴史って、めんどくさい」と苦手意識を持つ人が増えていて、興味への入り口が閉ざされている。教育の現場で、そんな現象を感じているというのです。
だったら「日本史に興味がなかった人」や「本当に苦手な人」が、入り口でつまづくことなく「面白い!」と思える本を作ろう! ということで『東大教授がおしえる やばい日本史』の企画がスタートしました。
ところが、第1回目の打合せで、いきなり絶句することになります。この本を企画した20代女性の担当編集さんが、まさに「日本史知識ゼロの人」だったのです。
「そもそも、天皇ってなんで偉いんですか?」とか「幕府って、なんですか?」といった質問がポンポン出る。「えっ、歴史に興味がない人って、そこからか!」と衝撃でしたね。まず、歴史好き以外に向けた本は初めてだったので、この企画は挑戦でした。
どうすれば日本史の面白さを「興味のない読者」に伝えられるか、担当編集さんと考えた結果、もっとも彼女が興味をもってくれたのが、以下の3つの要素でした。
(1)「すごい」と「やばい」でわかる人物の面白さ
歴史に名を残す人って、絶対に面白い人なんですよ。思考や行動力が(いい意味でも悪い意味でも)ありえないほどずば抜けているからこそ、偉業を達成できてるんですから。
そんな人物の魅力を、史実を壊さず面白く伝える。偉人たちの「やばい」エピソードだけだと単なる雑学本になってしまうので、初心者向けに偉人の「すごい」部分も一緒に教えてくれることが重要だと思いました。
(2)「相関図」でわかる人間関係の面白さ
どんな偉人も、たった一人で偉業を達成することはできません。日本史の面白さは彼らの関係性を知るとさらに高まります。
でも、単に主従関係だけを示しても、何だか味気ないですよね。「アイツのことが羨ましい」とか「本当は嫌いだけど仲良くしとかなきゃ…」というような、“本音”を描いた関係図で、人間関係に共感できるようにしました。
(3)「時の権力者」でわかる歴史の流れの面白さ
いくら人物に興味をもったところで、時代背景がわからなければ「この人、なんでこんな事をしたんだろう?」と、しっくりきません。
時代の流れをつかむには、「時代ごとの権力者」を押さえるのが一番。だから、この本では章の区切りを歴史学的な区切りではなく、偉い人区切りにしてみました。たとえば「平安時代」なら「ひまをもてあました貴族たちの時代」、「室町~安土桃山時代」なら「地方の怒れる武士たちの時代」と言いかえるわけです。そして、なんで地方の怒れる武士たちが権力者になったのか、時代背景がわかる漫画を描いていただきました。
こうして『東大教授がおしえる やばい日本史』が完成したわけですが、発売早々、大人にも売れはじめました。
「日本史が苦手だったけど、この本なら読めた!」「偉人に親しみがわいた」「めちゃくちゃ笑って一気に読んだ」という具合に、今まで日本史にあまり興味がなかったであろう人から続々と反響が寄せられたのです。
「うっすら歴史に興味があるけど、敷居が高くて手が出せない」とか「大人向けの新書を読んだけど、正直難しくて挫折した」といった経験をもつ大人が、潜在的に数多くいたのだと思います。
歴史を「両面」からみる重要性に、気付いてもらいたい
以前、本郷和人先生にインタビューをした際、印象的だった言葉があります。
「歴史人物を見るときに、”すごい”面だけをフィーチャーしたものに影響を受けて憧れるのは危険です。かといって”やばい”面だけを雑学として知っても仕方ない。
”すごい”と”やばい”の両面から見ることで、初めて客観性を手に入れることができます。
客観性のない人物評価は単なるフィクションです。そして僕たちの人生もまた、自分から見た面だけでは、他人にとってフィクションにすぎません。現代においても、客観的視点で物事を見ることは、何よりも大切なのではないでしょうか」
歴史は人類の記憶そのもの。過去の記憶を知らないまま、いまを手探りで突き進むのは、とてももったいないし、危険です。『東大教授がおしえる やばい日本史』を読んでくださる大人の読者には、是非、この視点を感じていただければ嬉しいですね。
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