「褒める」より「事実」を伝える

 とはいえ、こんなにうまくいくケースばかりではありません。
 どんなに丁寧にフィードバックをしても、メンバーの「心理的安全性」を傷つけてしまい、なかなか自らの問題に向き合ってもらえないこともあります。問題行動についてのフィードバックなのだから、それは避けられないのかもしれません。

 ただ、成功確率を高める方法はあります。
 というのは、フィードバックには、「ズレ」を指摘するネガティブ・フィードバックだけではなく、「目標地点に着弾している」と伝えるポジティブ・フィードバックもあるからです。普段から意識的にポジティブ・フィードバックをしておくことによって「心理的安全性」を高めておけば、ネガティブ・フィードバックをしなければならないときにセーフティ・ネットとして機能してくれるのです。

 イメージとしては、「ポジティブ・フィードバックを9回やったら、ネガティブ・フィードバックが1回できる」くらいの感覚でいるといいでしょう。「そんなにたくさんポジティブ・フィードバックができるかな?」と思うかもしれませんが、メンバーをしっかり観察していれば、いくらでも長所を見つけることはできます。問われているのは、マネジャーの観察力なのです。

 ただし、ポジティブ・フィードバックは、「褒める」のとは少し異なります。
「褒める」ときには、どうしても“上から目線”がまじりがちなので注意が必要です。そうではなく、「さっきのプレゼン、クライアントが身を乗り出して聞いていたね」「さっきの一言、〇〇さんがしっかりメモしてくれていたね」などと、相手の素晴らしい言動を、ここでも客観的事実として伝えるのです。そのほうが、メンバーは素直にその言葉を受け取ってくれるでしょう。

 また、マネジャー自身が、周囲からネガティブ・フィードバックをもらうことを歓迎する姿勢をあらわすことも大事です。自分に対するフィードバックに拒絶反応を示すマネジャーがいくらメンバーにフィードバックしようとしても、相手にされないからです。

 もちろん、メンバーがマネジャーにネガティブ・フィードバックを直言することはほとんどないでしょう。しかし、言葉にしない代わりに、「チームの雰囲気が停滞している」といったかたちで表出してきます。マネジャーは、そのようなフィードバックに敏感でいなければならないのです。

 もし、メンバーからネガティブ・フィードバックを受け取ったときは、真摯に受け止め、修正する努力をします。マネジャーのそうした行動は、必ずメンバーたちに伝播していきます。フィードバックに対して一人ひとりが真摯に向き合うその積み重ねが、健全なチームをつくりあげていくのです。