「競争を避ける」ZOZOはブルー・オーシャン

朝倉 ZOZOは間違いなくブルー・オーシャン的な発想の会社ですよね。もともとファッションをEコマースで売るのは無理だとされていたところを、時価総額1兆円の規模まで事業を成長させ、さらに今度はサイズという概念を変えようとしています。発想としては圧倒的にブルー・オーシャンです。社長の前澤友作さんは、「競争は嫌だから避ける」と明言していますしね。

入山 なるほど…、その通りですね。山口さん、キム先生はリクルートマーケティングパートナーズを成功例に挙げていますが、今後の取り組みについて教えてください。

なぜ、日本から「ブルー・オーシャン」は生まれないのか?山口文洋/株式会社リクルート 執行役員  兼 株式会社リクルートマーケティングパートナーズ 代表取締役社長 ITベンチャー企業でのマーケティング・システム開発担当を経て、2006年、リクルート(現 リクルートホールディングス)入社。進学事業本部の事業戦略・統括を担当し、2011年の新規事業コンテスト「New RING」にてグランプリを受賞、オンライン学習サービス「受験サプリ」を立ち上げる。2012年10月、リクルートマーケティングパートナーズの執行役員に就任。2015年4月、リクルートホールディングス執行役員およびリクルートマーケティングパートナーズ代表取締役社長に就任。2018年4月よりリクルート執行役員に就任。Photo by A.S.

山口 「ゼクシィ」で新しい取り組みを始めており、ブルー・オーシャンを狙います。

今は人口減少下にあるわけですが、それ以上に結婚した人が減っています。そのために婚活関連サービスが増えていますね。そこで、「ゼクシィ」ブランドとして「ゼクシィ縁結び」「ゼクシィ恋結び」というオンラインマッチングサービス、「ゼクシィ縁結びカウンター」という結婚相談所、「ゼクシィ縁結びパーティ」という婚活パーティのサービスを立ち上げています。たとえば、ゼクシィ縁結びカウンターは入会金が数十万円ではなくて3万、月額9000円からです。結婚相談をカジュアル化したいんです。そして結婚式では堂々と「ゼクシィ縁結び」で出会いました、と言えるような文化を作りたいと考えています。

入山 ありがとうございます。では最後の質問ですが、このようなブルー・オーシャンの成功のためには、どのようなマインドセットやリーダーシップが求められるとみなさんはお考えですか。

大胆な意思決定と「人間らしさ」

朝倉 事業の成功を因数分解すると3つの要素、「理」と「心(しん)」と「運」に分けられると考えています。「理」はロジックやフレームワークで考えるようなこと。「心」はタフな心でエグゼキュート(実行)すること。「運」はLuckですね。ポイントは3つの要素が結果に貢献する比率ですが、個人的には1対4対5程度じゃないかと考えています。つまり「運」が半分なんですよ。しかし、「理」と「心」でちゃんと準備していないと「運」をつかめません。「理」と「心」は1対4ですからエグゼキューションが難しい。

内部からはできない理由が100個ぐらい出てくるでしょう。その100個をいかに潰してくか、経営とはそのようなゲームだと思っています。ただ、タフな意思決定をしようとすると、組織人だとどうしても、反発を買ったらどうしようというメンタル・ブロックがかかってしまいがちです。事業を成功させることよりも、自分の地位を守ることや、組織内で嫌われないことが優先事項になってしまう。この点、私自身は自分の会社を売って入った人間ですから、会社にしがみつく気は全くありませんでしたし、いつクビになっても全然平気でした(笑)。

入山 そういえば以前、吉野家の社長・会長を歴任した安部修仁さんにお話を伺った時、「思い切った意思決定ができないのは、突き詰めればすべては意思決定者の保身だ」とおっしゃっていたのが、印象的でした。保身さえ取り払えば、どのような大胆な意思決定もできると。

朝倉 人の流動性がある程度担保されている社会であれば、組織にしがみつく必要がないので、思い切ったことができるんじゃないでしょうか。失敗の経験を活かして別のところでもがんばれますし。流動性のない日本特有の難しさはあるのかもしれませんね。

山口 私も実は「失敗しても死ぬわけじゃないさ」といつも考えています(笑)。たとえ大失敗をしたとしても、長期的に見ると自分の人生にとってかけがえのない学びになるかもしれない、と思えるように、失敗を活かすことが重要です。

入山 お二人に共通したマインドですね。それでは最後にキム先生、お願いします。成功のために必要な条件とは。

キム 最初に重要なのは、共通のツールとメソドロジー(方法論の体系)です。日本の70年代のTQMのようなことです。そうじゃないと、さきほど朝倉さんがおっしゃっていたように、主観的な意見ばかりが出てくることになります。イノベーションやクリエイティビティはそもそも非常に主観的なものですが、日本では統制を取った形で進めることがうまいですから、共通のコミュニケーション・システムを持って実行できるでしょう。

2番目に重要なのは、「人間らしさ」です。新しいシステムが入った時、その人の役割と責任を明確化するわけですが、ここに「人間らしさ」を入れます。それぞれのメンバーが自信を持てるような「人間らしさ」です。そうすれば全員が協調的に仕事をできると思います。日本はスーパースターを求めるアメリカとは違い、もっと「人間らしさ」が重視されます。70年代に日本企業はTQMを学び、そこに「人間らしさ」を入れて成功したのですから、再び日本がトップに立つこともできるでしょう。

入山 長時間、ありがとうございました。