深作秀春氏は、日本最大級の眼科である深作眼科の院長。これまでに15万件の手術実績があり、様々な手術方法を開発したことで海外でも高い評価を受けている。レーシック手術を日本で初めて成功させた医師としても知られている。
深作院長によれば、老年期にほぼすべての人がかかる「白内障」も、世界最先端の「眼内レンズ手術」をすれば、裸眼で生活できるまでに視力が回復するという。正しい知識を吸収すれば、人生100年時代を裸眼で生きることも可能な時代になったのだそうだ。
しかし、日本の眼科治療は海外に比べて遅れており、間違った常識や誤った治療法がまかり通っているのだという。我々は、あまりにも大切な「目」について無知なのだ。
このたび、ダイヤモンド社から『世界最高医が教える目がよくなる32の方法』を上梓した深作院長が、目がよくなるポイントをわかりやすく解説していきます。
3Dアートをどれだけ
見ても目が疲れるだけ
1953年、神奈川県生まれ。運輸省立航空大学校を経て、国立滋賀医科大学卒業。横浜市立大学附属病院、昭和大学 藤が丘病院などを経て、1988年に深作眼科を開院。アメリカやドイツなどで研鑽を積み、世界的に著名な眼科外科医に。白内障や緑内障等の近代的手術法を開発。アメリカ白内障屈折矯正手術学会(ASCRS)にて常任理事、眼科殿堂選考委員、学術賞審査委員などを歴任。ASCRS最高賞をこれまでに20回受賞。横浜と六本木に開設された深作眼科は日本最大級の眼科として知られ、スーパードクターとして15万件の手術を経験している。2017年、世界最高の眼科外科医に贈られるクリチンガー・アワードを受賞。
本屋さんをのぞくと「3Dアート」関連の本が、意外に多いのに気づきます。これがお遊びだけなら、別に大きな問題はありません。しかし、家庭の医学系の本の中に、「3Dアートで近視や老眼を治す」などとうたっている本があるのです。これは結論から言えば、全く効果はありません。
まず、人間がなぜ立体的に見ることができるかについてお話ししましょう。眼科の検査法で立体視検査法があります。例えばハエの絵が右と左にあります。これを特殊なメガネをかけて見ます。右の絵を右目で左の絵を左目で見ることになります。両方の絵は微妙に線がずれていて、両眼視機能があれば立体的に見えるのです。このような絵がいくつもあって、どの程度の差まで立体的に見えるのかを検査するのが、眼科での立体視の検査です。
この原理は、左右の像の中央線との間の角度を感じることで自分と見ている像との距離を感じることです。角度が少なければ遠方だし、角度が広ければ近くであると感じるのでこの原理を応用したものが3D立体映画とか3Dアートなのです。3D立体映画は右で見える像と左で見える像を、それぞれの目で見えるような特殊なメガネをかけて見ます。
通常は偏光レンズが使われます。角度によって光の波長を変えて右で見る波長と左で見る波長を変えるのです。これにより右目と左目で違う画像を見ることができます。実際に人間の右目から見る視線と左目からの視線は角度を持っていますので、この角度を感じて距離を知るのです。この距離感の違いで見ているものの凸凹や遠近などを知るのです。遠くを見れば、深い谷底や遠くの山の距離を知ります。近くの顔を見ていれば、高い鼻や落ちくぼんだ眼窩などを立体的に感じるのです。
映画はスクリーンに映しますから、本来は平面の画像です。この微妙に違う右に見える画像と左に見える画像を、特殊なメガネをかけさせて見せるのです。そしてこの左右の画像の角度を感じるようにさせるのです。頭脳はこの角度を過去の経験と照らして、どのような距離か判断し、立体的かを感じるのです。このため平面のスクリーンなのに、立体的な画像に見えてしまいます。これが3D立体映画や立体テレビの原理なのです。アカデミー視覚効果賞をとった「アバター」は空を飛ぶシーンや谷底のシーンが非常にリアルに見えて、しばらく見ると気持ち悪くなるほどですね。
このような3D立体映画を見たことのある方は理解できると思いますが、映画を見た後に目が非常に疲れなかったですか? これが3D映像の問題なのです。右目で見る映像と左目で見る映像が違うのです。「見かけ上」の左右の映像差で角度を感じさせるようにすることで、「見かけ上」立体的であるように脳を「誤解」させているだけなのです。このような「誤解」を2時間近く強制されたら、視神経や脳神経が疲れるのは当たり前だと思いませんか?