自分に有利な前提以外は「悪意あるダメ出し」で潰す
合理的な議論から前提(空気)が醸成されるなら、問題ないと思いがちです。しかし、空気の醸成は先に述べた「現実の一部を隠蔽する」影響を発揮します。
【空気の最大の弊害】
意図的な前提を掲げて押し付けることで、都合よく現実の一部を隠蔽する
共同体、集団の中で議論されたことで、次第に特定の「前提」が固まっていく。しかしその前提が、特定の人間やグループ(ムラ)にとって有利になっており、必ずしも全体の利益に合致していない場合はどうでしょう。
集団全体にとって、より効果的で恩恵の多い選択肢は、特定のムラが決めた「前提(空気)」によってすべて却下されることになるのです。
その意味で、常に問われるべきは「誰のための前提なのか」という視点です。都合の悪い選択肢を意図的に否定すれば、特定の者に有利な空気が醸成できます。合理的な議論をしているように見せて、空気で集団を操る者が暗躍する瞬間です。
その前提が全体の利益に結び付くものか、特定の者の利権として機能するのか。特定の前提からはみ出した議論や提言は、ことごとくダメ出しをして可能性を潰す。結果的に、最初から準備された結論しかないという空気ができるのです。
一つの組織にも利害が異なる立場の人たちがいる
合理的な議論だからいいではないか、という点への反証をもう一つ挙げておきます。
共同体はすべての人が同じ立場であるわけではありません。経営幹部もいれば技術部もあり、現場の人間もいれば中間管理職もいます。
1986年にアメリカの宇宙船チャレンジャー号が、発射直後に爆発する大事故がありました。乗員7名は全員死亡、スペースシャトル史上最大の事故として今も記録されます。
悲劇的な事故の原因となったOリングという部品の脆弱性は、NASAの下請け会社サイオコール社の技術者などから指摘され、気温の低下などのため当日の発射は避けるべきだと技術陣は進言していました。
しかしサイオコール社の幹部とNASAは、技術者とは違う前提を持っていました。彼らはチャレンジャー号の発射がたびたび延期されていたことで、経営的な観点から早急の打ち上げ実施に強いプレッシャーを感じていたのです。
【空気の最大の弊害】
意図的な前提を掲げて押し付けることで、都合よく現実の一部を隠蔽する
打ち上げ延期を、NASAとの信頼関係を傷つける経営問題だとする前提に包まれた同社の経営陣は、チャレンジャー号の打ち上げを推奨するとNASAに告知。
大事故の悲劇を生み出したのは、同社の中でムラを形成していた経営幹部でした。彼らはムラ(経営陣)の中での議論から、「早期打ち上げやむなし」という前提(空気)に包まれて、技術陣が主張した安全上のリスクを無視することになったのです。