顧客との関係性を築けば
市場調査はいらない
同社のジョナサン・フリードランドCCO〔最高コミュニケーション責任者〕は『ニューヨーク・タイムズ』紙に次のように語った。
「私たちは消費者とのあいだに直接の関係を築けているので、視聴者が何を見たがっているかがわかるし、特定の番組にどの程度の関心が寄せられるかもわかる。それがあるから、『ハウス・オブ・カード』のような番組を見てくれる視聴者が存在するという確信を持つこともできるのです」
ネットフリックスがユーザー情報を熱心に収集していることは誰もが知っている。同社は毎日、数百万、数千万のユーザーのタッチポイント〔企業やブランドと消費者との接点〕(動画だから「プレイボタン」だろうか)を観察している。
ユーザー評価レーティング、検索行動、居住地情報、視聴時間、利用デバイス情報、ソーシャルメディアへのフィードバックなどは当然として、番組のどこで一時停止ボタンを押したか、巻き戻したか、早送りしたかなどもそこに含まれる。そのプログラムを観る前に何を観たか、観た後で次に何を観たか、5分で観るのをやめたプログラムは何か、といったこともわかっている。
また、提供するすべてのプログラムに、暴力レベル、物語の舞台、時代設定、登場人物たちの職業までを指定した100を超えるタグが付けられている。
「サブスクリプション・サービスは実に素晴らしい」と語るのは、ネットフリックスのプロダクト担当副社長のトッド・イェリンだ。彼は『ガーディアン』紙にこう語っている。
「わが社はもう宣伝とは縁を切りました。視聴率にあまり影響しませんから。純粋な人気だけで成功を測れた時代は終わりました。それでは個人の思いがけない行動や嗜好が読めないのです。われわれはあらゆるデータをロサンゼルスの番組開発チームに渡して、彼らが考えているプログラムと突き合わせることができるようにしました。ユーザーデータは、そのプログラムを買うかどうか、次のシーズンも続けるかどうかを決める上で重要な判断材料になりますからね。伝統的なテレビネットワークもケーブルネットワークも、われわれのような情報は持っていません」
ネットフリックスにはテストオーディエンスもレーティングカードも必要ない。いまもネットフリックスは、成功も失敗もあるクリエイティブな業界で他社と競っているが、ネットワークテレビが絶対に持っていない“巨大な脳”を持っている。サブスクリプション・サービスにおいては、必要なすべてのインサイトが自社のシステムの中に存在しているのである。
(本原稿は書籍『サブスクリプション』からの抜粋です)
〈バックナンバー〉
第1回 フォーチュン500に入り続けている企業の共通点とは?
第2回 急成長企業のビジネスモデルはここが違う
第3回 加速する自動車業界のサブスクリプション
第4回 「空のウーバー」のすごいビジネスモデル
第5回 ソフトウェアの常識を塗り替えたGmailの開発哲学
第6回 市場調査ゼロで海外進出を成功させたスナック菓子の定期購入サービス
『サブスクリプション』著者、ティエン・ツォ氏のインタビュー記事はこちら
「サブスクリプション」拡大でギターの名門Fenderが大成功した理由――ティエン・ツォ ズオラ創業者兼CEOに聞く(上)
無数にある「サブスク」の収益モデル、高級卓球セットも意外な人気――ティエン・ツォ ズオラ創業者兼CEOに聞く(下)
Zuora創業者兼CEO
セールスフォース・ドットコムの創業期に入社し、CMO(最高マーケティング責任者)やCSO(最高戦略責任者)を歴任。同社での経験から「サブスクリプション・エコノミー」の到来をいち早く予見し、2007年にZuoraを創業しCEOに就任。Zuoraは、従来のプロダクト販売モデルからサブスクリプション・モデルへのビジネスモデル変革と収益向上を支援するSaaSプロバイダで、世界に1000社以上の顧客を持つ。2018年4月にニューヨーク証券取引所に上場。