「志のネットワーク」があれば、ひとりでも世界を変えられる

大切な決断ほど「直感」で決めることが重要

本田:「聖域なき構造改革」の中で、竹中先生ご自身が、「これはよくやった」と思う政策は、何だったのですか?

竹中:それはやっぱり、「不良債権処理」ですね。もちろん、「郵政民営化」も大変でした。郵政民営化のときは、私ひとりで1500回答弁しているのですよ。ひとつの法律に際し、国会で1500回答弁したのは、「新記録」だそうです(笑)。
ただ、郵政民営化のときは「小泉組」VS「反小泉組」の、組と組の闘いだったんですね。私は小泉組の1番槍で、背後には味方もたくさんいました。
でも、不良債権処理のときは、私ひとり。だから、本当に孤独な闘いを強いられました。

本田:不良債権処理をしていなかったら、ひょっとしたら、日本の回復は10年以上遅れたかもしれません。

竹中:そう思います。「リーマン・ショック」のときに、アメリカとヨーロッパの銀行があれだけダメージを受けたのに、日本の銀行はダメージを受けませんでした。それは、不良債権処理を先にやっていたからです。
不良債権処理をしていなかったら、日本のメガバンクも危なかったでしょうね。

本田:どれほど一所懸命に頑張っても、ひとりの力ではひっくり返せない大きな潮流があると思うんです。それでも竹中先生が迷うことなく、不良債権処理に取り組むことができたのは、どうしてですか?

竹中:それは、「志のネットワーク」があったからなんです。

本田:「志のネットワーク」とは何でしょうか?

竹中:「世の中を良くしたい」という志を持って、「批判ではなく行動で物事を変えていこう」という人たちの集まりを、私は、「志のネットワーク」と呼んでいます。
私が不良債権処理という大きな問題に取り組もうとしたとき、何人かの専門家に協力を求めたんですね。でも、ほとんどすべての方に断られました(笑)。そんな中で、香西泰さん(こうさい・ゆたか/第7代・政府税制調査会会長)、木村剛さん(きむら・たけし/日本振興銀行元社長)、中原伸之さん(なかはら・のぶゆき/東燃ゼネラル石油元社長)など、数人が集まってくれて、「竹中さんがそこまで言うのなら、お手伝いしましょう」と言ってくれたんですね。
当時、たしかに私はひとりでした。けれど、「志のネットワーク」があれば、ひとりでも世界を変えられると思います。
これからの日本の将来も、「自分たちで世の中を良くしたいという志を持った人」がどれだけ出てくるかにかかっているのではないでしょうか。