ミドル・シニアの5タイプのうち、「事なかれ・安住タイプ」は、多くの人が苦労する「年下とうまくやる」行動のスコアだけが突出して高いという特徴があります。このタイプは、役職を持たない人や、部下なし管理職の人にとくに多く見られます。

職場では表立っては活躍していないけれど、社内イベントなどの際には大いに存在感を示すベテラン社員――そんなタイプの人を思い浮かべていただくといいでしょう。一見すると、周囲との軋轢も少なく、とくに年下メンバーとのなめらかな人間関係を築いていることが特徴的な「事なかれ・安住タイプ」ですが、その他の行動特性に関してはスコアが振るわず、ジョブ・パフォーマンスも低くとどまっています。

さらに興味深いのが、「手持ち無沙汰感」に関する[図表4-3]のデータです。

「手持ち無沙汰感」をタイプ別で比較する

このとおり、「事なかれ・安住タイプ」には、ほかと比べて突出して高い割合(47.8%)で、なんらかの「手持ち無沙汰感」が見て取れます。
単なる交流だけでは、職場内の居場所は得られず、かえってチームのなかでは何をすればいいのか、わからなくなってしまうのかもしれません。

「人がわかる」という最大の強み――トランザクティブ・メモリー

「誰とでも分け隔てなく接する」ことは大切なのだとしても、居場所感にやはりそれとは別の行動が必要なのです。それは何なのでしょうか? 居場所感を保っている人には、どんな行動が見られるのでしょうか? データを分析した結果、次の3つの行動特性が見られました。

・ 他部門と積極的にコミュニケーションする
・ なるべく多様な人々との関わりを増やすようにする
・ 積極的に異なる意見や主張を周りから引き出す

興味深いのは、単に「知り合いを増やす」だけでなく、「積極的に異なる意見や主張を周りから引き出す」行動が見られる点です。つまり、居場所感がある人は、それぞれの人脈が持つ考えや経験・知識にも注目しており、いわゆるハブ的な行動を取れているのです。

実際、社会人としてのキャリアが長い人には、「誰がどういう知識・技術を持っているか」を把握しているという強みがあります。そう考えると、われわれの居場所感の確保にとって、ハブ的な行動が有効だというのは、じつにうなずける話ではないかと思います。

「誰が何を知っているか(Who knows What)」に関する知識は、トランザクティブ・メモリー(Transactive Memory)などと呼ばれます。これはもともと、社会心理学者のダニエル・ウェグナーが唱えた概念ですが、経営学の世界では、組織パフォーマンスにとっても、重要な役割を果たすことがわかっています。

「つながる」から「つなげる」へ発想を転換しよう

本人が知識・技術を提供して、チームに"つながる"ことができれば、それはすばらしいことです。
しかしそれだけではなく、社内にある「資産」と目の前の「問題」とを"つなげる"役割を果たせたとき、そこには新たなネットワークが生まれます。こうして情報と情報のやり取りのハブになれたとき、われわれの「居場所感」は大きく高まっていくのです。

このことを、冒頭の大川さんの事例に即して考えてみましょう。

小林さんからの依頼は、そもそも「B社案件のときの資料を見せてほしい」ということでした。元エースの大川さんがまずやるべきだったのは、「武勇伝」を語り出す前に、ひとまずそのリクエストに応じて資料を差し出すことでした。その点が最初のつまずきポイントだったのは、誰の目にも明らかです。
とはいえ、ここで「はい、どうぞ」と資料を渡すだけでは、両者のつながりはその場限りで終わっていたかもしれません。では、もしここで大川さんが、こんな情報を手渡していたとしたら、どうでしょうか?

「A社に提案するなら、法人営業部にいる中田さんにも聞いてみるといいですよ。彼女は以前にC社案件を担当していましたし、抱えている経営課題からすると、A社はむしろC社に近いですから、中田さんの資料もきっと参考になると思います」

大川さんがこんな提案をしていれば、事態は大きく変わったかもしれません。大川さんのおかげで、小林さんは期待以上の情報を得られるうえ、中田さんとも新たにつながることができます。小林さんはまた大川さんに相談したいと思うでしょうし、その情報を聞きつけたほかの後輩たちも、大川さんを頼ってくるかもしれません。これがハブ行動です。

知の仲介者になろう

このように、ある人が持っている知識・情報を、別のしかるべき人へとつなぐ役割を担う人物のことを、私はナレッジ・ブローカー(Knowledge-broker:知の仲介者)と呼んでいます。

組織のどこか一部にしまい込まれている知識・情報をほかの人に仲介するナレッジ・ブローカーは、組織内のさまざまなネットワークを強化するうえで、きわめて重要な存在です。われわれに求められているのは、こうしたナレッジ・ブローカーとしての役割なのです。

もしもなんらかの相談を受けたり、解決すべき問題に直面したりしたときには、「どうすればいいか」という具体的な知を手渡すだけでなく、「誰が何を知っているか」を周囲に提供していくことを意識してみましょう。そうすることで、単なる交流をはるかに超えた、強固なつながりをつくっていけるはずです。

石山 恒貴(いしやま・のぶたか)
なぜ、ベテラン社員ほど「居場所感」を失い、「社内孤独死」するのか?

法政大学大学院 政策創造研究科 教授
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科経営情報学専攻修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科政策創造専攻博士後期課程修了、博士(政策学)。一橋大学卒業後、NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。「越境的学習」「キャリア開発」「人的資源管理」などが研究領域。人材育成学会理事、フリーランス協会アドバイザリーボード、早稲田大学大学総合研究センター招聘研究員、NPOキャリア権推進ネットワーク授業開発委員長、一般社団法人ソーシャリスト21st理事、一般社団法人全国産業人能力開発団体連合会特別会員。主な著書に、『越境的学習のメカニズム』(福村出版)、『パラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社)、主な論文に"Role of Knowledge Brokers in Communities of Practice in Japan." Journal of Knowledge Management 20.6 (2016): 1302-1317などがある。