これからは「デジタルノマド」が当たり前に?
エストニアとイタリアに学ぶ「働き方改革」の本質
エストニア生まれ。エストニア経済通信省局次長を経て民間へ。コンサルティング会社ESTASIAや、日本のクラフトビールを欧州へ輸入するBIIRUを設立。現在、Planetway取締役。日本・エストニア/EUデジタルソサエティ推進協議会理事も務める。タルトゥ大学卒、早稲田大学修士課程修了。共著に『未来型国家エストニアの挑戦 電子政府がひらく世界』(インプレスR&D)
ラウル・アリキヴィ あまり日本と変わらないと思いますね。そもそもエストニアというと、若い国のイメージがあるようですが、今年100周年を迎えます。そのうち50年ぐらい、ソ連などに支配されてきました。
1991年に独立を取り戻した後、エストニアは主にヨーロッパに焦点を合わせてきました。しかし私は、未来はアジアにあると考えていました。それで私は日本に来ました。それ以来、日本に住みながら、エストニアと日本をつなげる仕事をしています。現在は、エストニアの電子政府で用いられている技術を世界で初めて民間企業向けに応用した製品を展開するスタートアップで働いています。
働き方についていえば、起業して5年間ぐらいはオフィスを持たずに働いていました。オフィスといえば、歩いて20分ぐらいのスターバックスコーヒーでした。日本にいながらも、スタバからエストニアとのさまざまなプロジェクトをやってきました。
エストニアでは、このような「デジタルノマド」という働き方は結構、普通だと思います。たとえば、いまでは、それを他国にも広げようと、イーレジデンシー(e-Residency)やデジタルノマドビザの施策が進められています。日本ではまだあまり認められていない働き方かもしれません。
孫 イーレジデンシーについていえば、最近でもエストニアの政府関係者から、「2018年の上半期で、取得した1位の国がどこだと思うか」と聞かれました。ドイツあたりかなと思っていたら、第1位は日本だそうです。
また、「デジタルノマドビザ」についていえば、エストニアは、デジタルノマドの人たちに向けたビザを発行する計画があります(注:連載第3回も参照)。たとえば、ITエンジニアやコンサルタントといったフリーランサーが世界を旅していたとします。その途中で出会った人から「仕事を引き受けてくれないか」と言われても、各国の規制があって簡単に「いいよ」と言えない。エストニアはこうした壁を取り払おうとしています。
司会 イーレジデンシーやデジタルノマドビザが「なんぞや」というほうは、本に書いてありますのでじっくりお読みください(会場笑)。
マッキンゼー・アンド・カンパニー、松竹を経て、2007年NPO法人「TABLE FOR TWO International」を創設し、代表理事に就任。2011年、シュワブ財団・世界経済フォーラム「アジアを代表する社会起業家」(アジアで5人)選出。早稲田大学理工学部卒業、オーストラリアのスインバン工科大学大学院で修士号取得。著書に『[完全版]「20円」で世界をつなぐ仕事』や『人生100年時代の新しい働き方』(いずれもダイヤモンド社)等。
小暮真久 エストニアではないですが、僕はイタリアに3年間住んでいました。イタリア人というと、軽いというイメージがあるかもしれませんが、労働時間で見ると、実はイタリア人のほうが日本人より長く働いています(注:OECDによれば、イタリアの年間平均労働時間は、日本の1710時間に対して1723時間に及ぶ)。
では、彼らが働く上で何を大事にしているかというと、1つが隙間時間です。驚いたのは、ランチなのに、下手すると3時間ぐらいかけて食べるのです。その時間を犠牲にしたくないから、夜が遅くなってもいいとさえ考えています。お昼の時間を犠牲にするほうが彼らの価値観に合わないのです。
もちろん、健康を害するまで働くのはいいと思いませんし、その規制はしなければなりません。ですが、中には仕事をしたいという人もかなりいると思うので、それを働き方改革といって十把一絡げにくくってしまうのは、危険ではないかと思います。
もともと、僕はTABLE FOR TWO(テーブル・フォー・ツー)という、先進国の肥満を解消すると同時に、アジア・アフリカの子どもに給食を届ける活動をしています。もう10年近くしているので、「テーブル・フォー・ツー=僕」というアイデンティティーとなる。
そのためか、マクドナルドでハンバーガーを食べていたりすると、「あ…肥満」や「大丈夫なのですか」と言われてしまう。僕だってたまにはビッグマックが食べたいのです(笑)。
そんな時、イタリアで一番、仲のよかったカルロという友達の姿が励みになりました。彼は弁護士でありながら、映画が大好きで、映画のプロダクション会社もやっています。どちらかが仕事、どちらかが遊び、といった区別はない。直感的に心が動くことをやっているように見えました。
たった1つのアイデンティティーではなくて、心が動くものをあまり考えずにやってみて、複数のアイデンティティーを持てるようになったら、次の10年、20年が楽しくなるのではないかと思います。