我々を蝕むのは「成功」への強迫観念?
損か得かで考えず、「好き」のハードルを下げよう

 よく「好きなことがあればやりたいのですが、なかなか好きなことが見つからない」という相談を受けます。皆さんなら、どう答えますか。

小暮 「好き」のハードルが高すぎるのではないでしょうか。僕の好きなものといえば、梅干しです。本当に好きで、海外にいた時もスーパーで買っていたのですが、そこで売られているものがひどくまずい。ならば、本当に美味しい梅干しを世界に出したい、と考えています。好きなことが梅干しでもいい。もっと、「好き」のハードルを下げて考えるほうがいいですね

 ナイスアドバイスですね。

ラウル 自分が成長できるような、好きなことを見つけるというのもありますよね。私は、映画が好きでエストニアの友達と映画づくりをした経験もあります。また、日本のクラフトビールが大好きで、日本のクラフトビールを欧州へ輸入する会社も設立しました。全然、もうかってはいないですけどね(笑)。

田鎖 どちらかといえば、できることから好きにつながっていくのではないでしょうか。自分で何かができるようになると、楽しさを感じられる。それが好きになると思います。
 私自身、お金への興味なんてなかったのですが、仕事の中でできることが増えていくと、楽しくなり、成功体験を積み、好きになっていきました。ですので、まずは小さいことでもいいので、できるようになる、というのが大事かなと思います

巣籠 仕事に対してネガティブな姿勢で取り組む方が少なくないように感じます。「やらなければならない」などと思っているよりも、この仕事からは何を得られるのかと考えたほうが面白いと思います。私は、仕事をロール・プレイング・ゲーム(RPG)、ゲーム感覚でとらえています

堅田 好きか嫌いかという話をすると、どうしても損か得かの議論が混じってしまう人がいます。たとえば、われわれの講義を受ける方の中には、「何か、お金がもらえそう」や「将来、役に立ちそう」と、損か得かで考えている方がいます。それを否定はしませんが、私としては、データサイエンスを好きになって卒業してもらいたい。損か得かで選択していると、いつか苦しくなるからです

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 先日、新幹線で移動していて、ある駅の小さな本屋さんに立ち寄りました。ベストセラー本のランキングがあったのですが、「ビジネスエリートのための~〜」や「これからの人生をサバイブするための〜〜」のような本ばかりが並んでいました。
 成功しなければならないという強迫観念が社会にあると感じ、何だか、すごく貧しいなぁと思ってしまいました。出版社が悪いというよりも、彼らは売れるものを作ろうとしているので、われわれがそう思っている、という裏返しなのでしょう。
 どうも、成功にこだわり過ぎではないかと感じます。成功とか失敗とかって、きちんと考えると、実のところ、よくわからないじゃないですか。たとえば、お金がもうかったからといっても成功ではまったくないわけです。不幸なことになるのは、そうしたお金が原因だったりしますしね。
 この感覚が好き嫌いにも紛れ込んでいるという話ですよね。人生、長いのだから、あまり気にしなくていいのではないかと、思います。

小暮 人材獲得に苦労しているNPOからすると、企業でお勤めの皆さんは思っている以上にスキルを持っています。ピンポイントで喉から手が出るほどほしい人がいます。それなのに、所属している組織だと評価されていなかったり、ご自身が気づかれていなかったりする。そういう人に何人か来てもらったことがあるのですが、「こんなに褒められたことがない」や「こんな特技が役に立つんですね」と言っていました。認知することが大事なのだと思います。
 いきなり転職となると、心理的には大変です。なので、たとえば、NPOに対しての出向やインターン制度があれば、好きなことの発見につながる機会が増えるのではないでしょうか。