本書は、トヨタの元労組書記長(現在、弁護士)の加藤裕治さんが、トヨタ生産方式を担う人々の心と姿を、自身の経験を踏まえて活き活きと描き出した本である。わかりやすく、面白く、一気に読める。
何がわかるのか、私なりにつかみ出すと、以下の点である。
第1に、トヨタ生産方式の核心といわれる「カイゼン」のスピリットと様相、たとえば、「『なぜ』を少なくとも5回」発して常に考え議論する社員たち、労使対等を旨としつつ経営に貢献する労働組合、職場の問題の摘出を組合に委ねる経営陣。
第2に、社員や労使関係に浸透するトヨタイズムの原点が、戦後大争議における双方の痛み分け決着と組合との約束を守った経営トップの姿勢にあること、そこから労使の共同宣言が生まれ、それが10年おきに労使の議論のうえで再確認されていること。
第3に、現在のトヨタの労使関係の仕組みと実相、たとえば、労使対等を形にした労使のカウンターパート関係、ほぼ10人単位の職場会での徹底した議論から積み重ねる組合内の合意形成、不規則発言もありうる労使協議の緊張関係、などなど。
春闘が華々しく、ないし着実に、成果を上げていた1970年代、80年代とは異なり、労働組合が企業の中でどのような役割を果たしているのか、日本的労使関係の粋とされる労使協議の手続が現在ではどの程度、どのように意義を保っているのかなどは、企業の外部からほとんど見えない時代となっている。
本書は、日本を代表する会社の事例として、労組が会社の経営や従業員の福祉に果たしている役割を私たちに啓蒙してくれる本である。トヨタの経営そのものに関心のある方々には、トヨタ式経営の人的側面の様相を教えてくれる本である。是非一読されることをお勧めする。