「成績優秀な大学生が自宅やオフィスをお掃除します」。フロリダ大学の学生が創業した清掃サービス会社、スチューデント・メイド。創業から10年、“非常識なまでに徹底した、社員を大切にする経営”により、全米で大評判となった同社の採用面接には、今やミレニアル世代を中心にさまざまな世代が押し寄せるという――。この連載では、同社の創業者、クリステン・ハディードの著書『離職率75%、低賃金の仕事なのに才能ある若者が殺到する奇跡の会社』(クリステン・ハディード著/本荘修二監訳/矢羽野薫訳)の記事からその驚くべきストーリーやノウハウを紹介し、同書にインスパイアされた各回で活躍されている方のインタビューを掲載していきます。今回は、学習院大学経済学部 特別客員教授 斉藤徹さんが、『奇跡の会社』の読書体験をシェアしてくれます。(構成/西川敦子、撮影/タキモトキヨシ)

おじさんにはわかりづらい「透明な時代の価値観」

斉藤徹(さいとう・とおる)
1985年、慶應義塾大学理工学部卒業後、日本IBM入社、1991年、フレックスファームを創業。2004年同社全株式をKSKに売却。2005年、ループス・コミュニケーションズを創業し、ソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開している。2016年に学習院大学経済学部経営学科の特別客員教授に就任。生の経営体験と理論をベースにした、ハイブリットな起業論や経営論を学生たちに教えており、講義内容はブログ "Join the dots" で公開している。『ソーシャルシフト』『新ソーシャルメディア完全読本』『ソーシャルメディア・ダイナミクス』『再起動 リブート』など著書も多数。

本荘 本書『離職率75%、低賃金の仕事なのに才能ある若者が殺到する奇跡の会社』に登場する「ミレニアル世代」は、2000年代に成人した人々です。われわれおじさんからすれば、理解しがたい面もあるのでは。さらにその後の世代、90年代後半以降に生まれた「Z世代」となると、もうまるで宇宙人。彼らも同じヒューマン・ビーイングなのだから――と理解に努めるものの、「やっぱりわからん!」と悶々とする人は多いんじゃないでしょうか。

しかし、斉藤さんはそのZ世代を相手に、学習院大学で何やら変わった取り組みをしていると聞きます。2017年にはJBMC(ジャパン・ビジネスモデル・コンペティション)で3位にランクイン、産学連携のCSVコンテストでも最優秀賞を受賞。青学や慶應、早稲田など他大学からの参加者も増えていて、ついには学生たち自ら会社までつくってしまったという。いったいどんな活動なんですか?

斉藤 「イノベーションチームdot」といって、僕の講義「起業論」を受けた学生たちが立ち上げた自主ゼミ活動です。2016年上半期で授業は終わったのですが「単位がつかなくても学び続けたい」と感じてくれた学生たち20名が集まって、自発的に定例会を開くようになりました。

授業の延長で自分の身近な社会課題を解決するプロジェクトを進めていくうちに、プログラミングやプレゼン、グラフィックレコーディング(会議の記録手法)といった、大学の授業ではやらないけど大切なことを自分たちで勉強して教えあうようになり。翌2017年になると、活動が面白くなって、内定もらってるのに就活をやめちゃった学生がいて、結局その子が代表になって、サステナブルな活動にしようと株式会社を立ち上げることになりました。

Z世代ならではのアイデアを生かし、企業の課題解決をする取り組みもしています。関心をもつ企業も増え、朝日新聞社、パナソニック、マンダム、講談社、集英社、メンバーズなどがクライアント企業、パートナー企業としてかかわっていただいてます。スローガンは「学生発 人を幸せにするイノベーションを世界に」。まあ、自分の『好き』『やりたい』をカタチにできる場所ですね。

本荘 採用難の時代だし、大手企業からも引く手あまたでしょうに。やっぱり「宇宙人」だ(笑)。お話を聞く限り、社会課題解決に取り組んだりして志が高そうですね。しかし、ベンチャーにありがちな野望が感じとれないのが不思議だなあ。ひと昔前の起業ブームでは、業界ナンバーワンや上場をめざすアントレプレナーが多かったでしょう? 教え子のみなさんはちょっと違うマインドを持っているような……。本書の著者、クリステン・ハディードさんも同じで、会社を大きくすることにも上場にも関心がないんです。

斉藤 人生における「本質的な幸せ」について講義で取り上げている影響もあるんですが、彼ら彼女らにとっては、あくまで自分がハッピーになれる場所とか仕事とか仲間が大事なんですね。もちろんZ世代もいろいろで、上昇志向の強い子もいる。でも、そうじゃないタイプはやっぱり増えている気がします。なにしろSNSのおかげで社会全体が透明化していて、今やあらゆる情報が筒抜けという状態じゃないですか。人の裏をかいて儲けたり、不祥事を隠したりなんて到底できないし、個人も本音ベースで他人に向き合わないと、「なんか嘘くさい」「盛ってる」ってばれちゃう。だからなるべく等身大で生きようとするんでしょう。

本荘 この本も年長者が読むと、すごく不思議な気分になるみたいです。舞台となった清掃会社、スチューデント・メイドがめざす成功とは、従業員がハッピーになれる場所、仕事、仲間そのもの。従来の成功イメージとは全然違います。それなのに、クリステンさんのTEDトークは若者たちに受けて300万回再生され、Inc.誌では「ユニークなリーダーシップで注目される世界のCEOトップ10」に選出されている。おまけに清掃会社でありながら、フロリダ大学の成績上位者が採用してほしいと詰め掛ける――若い奴らの考えることは全然理解できない、と感じるんじゃないかな。

斉藤 違和感は大きいでしょうね。スチューデント・メイド社にどんどん人が集まってくるのは、きっと採用広告に成功しているからだと社会人は読み取るでしょうね。でも、僕は違うと思う。Z世代はメディアを信用していないので、広告にはほとんど反応しません。きれいに作りこまれた企業のメッセージには見向きもしないんです。彼らが信用するのは友達の体験。自分が面白い体験をすると、その場にあうと思う友人を連れてきたくなる。この子、きっと喜んでくれるはず。そんな動機が一番強いんです。イノベーションチームdotも、毎週のように参加者が友達を連れてきて、その友達が誰かを連れてきて、といった具合にメンバーが増えて、いつのまにか100人を超えていました。広告とかまったくなしです。単位もつかないのにめちゃ楽しんで勉強してて、ホント不思議なチームです(笑)