「いま、成功している商品やサービスとの差別化」は常に、新商品開発における最大の課題になります。
では、見たことないおもしろさを持ち、かつ消費者のニーズに訴求する企画とは、どのように作ればいいのか?
本記事では、「どハマり度No.1バラエティ」『家、ついて行ってイイですか?』仕掛け人、テレビ東京制作局ディレクターの高橋弘樹氏が、発売即増刷し、「異色すぎるビジネス書」として話題の新刊『1秒でつかむ』の内容をベースに「他を圧倒する企画作りに必要な考え方」をお伝えするとともに、『家、ついて行ってイイですか?』の企画書を特別公開します。(構成:編集部/今野良介)
新海誠監督の「狂気」
深く「いい」と言われものは、たいてい、どこか狂ってます。
宮崎駿は、1作品の映画を仕上げるのに、自ら1000枚以上のコンテを書き、おかげで1作品終わるごとに「引退宣言」。自ら、1作品作り終えると、「自律神経が乱れてしょうがない」と述べていると紹介しました(宮崎駿『風の帰る場所』)。
おそらくこれは、完全に本心なのでしょう。全神経を、1作品ごとに投入しているのだと思います。『風立ちぬ』では、関東大震災の混乱の中、群衆が行き交うわずか4秒のシーンに、1年3ヵ月かけています。完全に狂ってます。
また、黒澤明のスクリプタを務めた野上照代の著書に、『天気待ち』という著書があります。黒澤明は、自分の理想の天気がくるまで、徹底的に撮影をただ止めて待ったという伝説を持ちます。完全に狂ってます。
新海誠の出世作と言ってもいい、『秒速5センチメートル』。
そのエンドロールを見てください。
監督・脚本・原作・絵コンテ・演出・
キャラクター原案・美術監督・色彩設計・
撮影・編集・3DCGワーク・音響監督 =新海誠
狂ってます。狂いすぎてて衝撃で、ぼくは、まったく普段の業務と関係ないのに「これを地上波で放送させてください!」と気づいたらお願いしに行ってました。まだ、『君の名は。』の前の作品の公開前という時です。ですから、地上波で『秒速5センチメートル』ほか、新海誠作品を初めてオンエアしたのは、テレビ東京なんです。
映画の後ろで放送するために、完全に趣味で新海監督に実際インタビューしたんですが、鬼のこだわりでした。『秒速5センチメートル』は、ざっくり言うと男女の恋愛物語なんですが、年代ごとに、男女のどちらが前を歩いて後ろを歩いているのかが違う。男性が前を歩いてる時は、恋愛のパワーバランスとして女性が男性を追っている時。女性が前を歩いている時は、男性が女性を追いかけている時、と描きわけているそうです。
ヤバい人ですね。
でも、想像してみてください。
たとえば、あなたが駅で電車を待っていたとします。いきなり、大声を出して踊り始める、狂った人がいたら、やはり目が釘付けになってしまいますよね。
が狂った姿には、確かに人をひきつける魅力があるのです。だから古来、狂った、もしくは狂ったふりをした人物は、日本各地で「神」として祀られてきたわけですし、宮崎駿はアニメの神様、黒澤明は映画の神様なのです。
しかし我々は、この人たちみたいに狂う必要はありません。
というか、この人たちみたいに狂ってはいけません。
この人たちは、本当の天才ですから。放っておいてください。
我々に必要なのは、「ほどよく狂う技術」です。
これは誰にでもできる、しかしものづくりにおいて、とても大切な技法です。
では、「狂う」とはどういうことなのか。実は、人が「なんか狂ってんな」と思う「狂気」は、からみあう2つの要素で構成されているのです。
・熱量
・欲望
の、2つです。
まずは、とてつもない「熱量」。これに関して、ほどよいとはどういうことか。
それは、「可能な限り」の中での勝負であるということ。そのための武器として、「時間のバランス崩壊力」という1つの方法を、本書で示しました。
では、時間のバランスを崩壊させて時間を捻出したとして、その時間を仕事での成長のためにまわしたいな、と思うための「動機」はなんなんでしょう。
それこそ、狂気のもう1つの構成要素である「欲望」なのです。
つまり、熱量をかけられる「自分のやりたい企画」を実現させる。
あるいは、熱量のかけられる「自分のやりたい仕事」を発見するということです。
一見難しそうに思えますが、実は超簡単です。ポイントは「昇華」です。
(1)自らの欲望を肯定する
(2)そして、その欲望を昇華する
実は、自分の欲望には、「自分がやりたいこと」であるという「エゴイズム」の側面と、「他人も実はやりたいこと」の本質が含まれている可能性があるという「ニーズの卵」としての側面があります。
前者の「自分がやりたい」という側面は、熱量を支えるガソリンになります。そして後者の「他人もやりたいこと」こそが「自分のやりたいこと」を企画に落とし込むための手がかりなのですが、これは「自分の欲望そのまま」ではダメなんです。
それを「昇華」させる必要がある。
この「欲望の昇華」が、この項でいう、「欲望肯定力」です。
では、その「欲望肯定力」とは何か。
実際の『家、ついて行ってイイですか?』の2つの企画書をご覧いただきながら、実際に欲望を肯定していく過程を体験してもらえれば、と思います。
『家、ついて行ってイイですか?』には、僕の3つの「超・中・下」の欲望が込められています。
まずは、一番はじめの企画書をご覧ください。
もう現在の形とほど遠い、欲求不満の時に書いたとしか思えない、完全にAVの企画書です。
でもこれでいいんです。その時、本当に「深夜のすっぴんの人妻」を見てみたいなぁ、って思ったんです。これを一度企画書にしちゃう。で、ボコられちゃえばいいんだと思います。
でもいくら、ぼくがそういう番組をやりたいからと言って、こんな変態な企画を通すほど、テレビ東京もイカれてるわけではありません。
「これでは、数字がとれない」
たしかに、「女性のエロ」は、男性の数字はとれても、女性の数字がついてこないので、そもそも「半分の土俵」でスタートする大きなハンデを背負います。
また、この頃には、もうネットに過激な画像がたくさんあふれ始めていましたから、テレビが中途半端なセクシーで数字をとれる時代ではなくなってきていました。
あと、「やばすぎる」と言われました。
まあ、言われなくてもわかっていました。
なので、ここからこれを改善していくわけです。ここからの過程が「昇華」です。
たしかに、「すっぴんの人妻」も見たいんですが、ぼくはそもそも、なんですっぴんの人妻を見たいんだろうか。
なぜ、すっぴんの人妻を見たら、ワクワクすると思ったんだろう……。
たしかに、ちょっとエロい下心もあったかもしれませんが、それが第一ではなかった気がします。その深層にあるのはなんだろう……。考えると、そのワクワクポイント、それは無防備な「深夜のプライベート空間」です。
そして、僕はもともと、不動産に興味がありました。そして、視聴者にとっても、「衣食住」という言葉があるように、不動産には潜在的なニーズがあります。
そこで、次に書いた企画書は、こんな形でした。
次のページに全て掲載します。