女の子の“脱「箱入り娘」化”
また、ここ2~3年で女の子の共学志向が高まるとともに、女の子がたくましくなっていると富永氏は指摘する。
「これまでは女の子はコツコツ型、男の子はラストスパートで追い上げ型というのがステレオタイプとされてきましたが、最近では覚悟を決めた女の子の追い上げがものすごい。それを象徴するのは、午後入試を受ける女の子の増加です。入試には大人の想像以上にエネルギーを消耗しますが、それを午前&午後とこなせてしまう女の子も多く、男の子よりメンタルも体力も強く驚かされる。また、山脇学園の午後入試では算数に特化した入試を導入するなど、限られた難関校以外でも“リケジョ”(=理系女子)を歓迎し、多様な能力を持つ生徒同士の学び合いを目指しています。親御さんもこれまでのような『女の子らしさ』を求めるよりは、男女対等で自立を望む価値観に変わってきているのです。
このように、女の子は共学志向、難関校に挑戦する強気の受験、ラストスパートによる逆転合格、遠距離通学も厭わないなど、“脱「箱入り娘」”化が進んでいます。
いっぽう男の子は逆で、無理して遠くまで通わなくていい、御三家にこだわらず、今の成績で行けるところでいいという安全志向の家庭が増えているせいか、偏差値では2番手ゾーンの人気が高まっています」
富永氏の著書『男の子の学力の伸ばし方』『女の子の学力の伸ばし方』にあるように、VAMOSでは性差に現れる強みを存分に活かしつつも、「男の子なんだから頑張れる」という根性論を押し付けたり、「女の子だからもうこのくらいで」とリミッターをかけたりしない。生徒一人ひとりをよく見て、その子に合ったアプローチを選んでいる。
「女の子でもリミッターを外し、男の子の伸ばし方をあてはめてみたらすごい爆発力で伸びることもあります。根性論では潰されてしまうような男の子なら、女の子の伸ばし方で進めてやると安心して勉強がはかどるようになることもしばしば起こります。大事なことは、我が子の可能性を最大限に引き出すために、複数の選択肢を残しておき、柔軟にアプローチを変えてあげること。そうすれば子どもは一気に、本来以上の力を発揮することができるのです。それが今回、あえて2つの本にわけて上梓した狙いでもあります。」
では、今年の入試の内容についてはどうだったのか。富永氏は3つの傾向を挙げた。
入試の傾向I:首都圏では算数が易化
まず第1に、今年は首都圏で算数の易化が際立ったと指摘する。
「これまで算数は、どの塾でも教材の内容がどんどん難しくなり、その分土台となる根幹の基礎の部分が手薄になっていました。今年、算数の内容が易化したのは、こうした塾の過当競争に歯止めをかけ、基本に立ち帰ろうという動きに見えます」
中学受験の算数で問われる力は、処理力と思考力だ。処理力は、簡単にいえば計算力、そして1行問題と呼ばれる典型問題を素早く正確に解く力である。富永氏によると、昨今はこの計算と定番の問題を解ききれる力が非常に重要になっている。
「女の子の最難関、桜蔭と女子学院でも、今年はこれまでにない基本問題が出題されました。あまりにも簡単すぎたので、何かの間違いではないかと手が震えたほどでした。雙葉でも4桁分の3桁という分数の約分を計算させ、愚直なほどの粘り強さと正確さを求めています。
この傾向は、今の子どもたちの処理力が低く、こうした基本のところで僕たちが想像している以上の差がついているからかもしれません」
いっぽう思考力では、折り紙やトランプ、ボードゲームなど、“遊び”の体験がある子には有利だったと富永氏はいう。空間把握力、想像力、推理力といった高度な思考力を問う傾向が一層強まったようだ。