だから、よもや国民の多数が「EU離脱」を選ぶとは思いもしなかった。若い政治家の軽はずみな行動が国益を損なう結果を招いた、という評価となった。

 国民投票は、米国にトランプ大統領が現れ、フランスでは極右のルペン氏が勢力を伸ばしたころだ。

 身近な敵を作り、国民の怒りや不満を外に向けるというキャメロン氏の火遊びは、予想外の火勢となって自分が火だるまになった。

 結局、キャメロン氏は首相辞任だけでなく、議員を辞職し政界から消えた。それほど重罪を犯した、ということである。

国民が再投票を言いだす空気を
政府は醸成するよう動いた

 当時、メイ首相は内相。EU問題では「残留派」だった。

 それが、首相になると「国民の意思を尊重し離脱交渉に全力を注ぐ」との姿勢を鮮明にした。

 その頃から「国民投票をもう1度」と言っていた人たちは、ピタリと言わなくなった。民意を尊重する英国らしい態度ともいえるが、本音と建前を使い分ける英国人のしたたかな戦略である。

「間違えたからもう1度」では、勝つまでジャンケンである。

「大阪都構想」を掲げる大阪維新の会みたいなことは、民主主義の先進国である英国はやらない。

 EU離脱の叫びは一種の「政治的うっぷん晴らし」だった。

 離脱を宣言し、国民が高揚して熱くなっている時に、「EU残留」を説いても、はねつけられる。うかつに持ち出せば選択肢として消されてしまう。国民が再投票を言いだす空気を醸成する方向に政府は動いたのである。

 離脱論議に時間をかけ人々の頭を冷やす。冷静になれば、何が損でどうすれば得か、おのずと分かる、と知恵者は考えていたのではないか。

 英国は日本と同じ島国であり、一国で生きていくのは容易ではない。

 大英帝国時代の植民地はほとんど独立し、特別な関係にある米国は、今や自国ファースト。EUという共通市場に寄り添い、経済でも主要な地位を占めることが英国の国策になっている。