象徴がロンドンの金融街シティだ。

 世界の金融機関が集まり、外貨の取引は世界一。マネーと情報の集積地として繁盛している。「ウィンブルドン現象」という言葉がある。

 ロンドン郊外のウィンブルドンで行われる伝統的なテニス大会は世界でも有名だ。実力や人気を備える英国人選手を探すのは難しい。金融業も同じ、というのである。

 プレーヤーや観客は外国から集まる。おかげで観光地やロンドンの繁華街にはカネが落ち、にぎわった。 

 ひと昔前のシティは地場の金融業者がひしめき、排他的な慣行がまかり通っていた。

 サッチャー政権はシティの大改革に踏み切り、アメリカ、日本、欧州大陸の銀行を呼び込んだ。地場資本の集合体では金融新時代を生きられない、と腹をくくり、世界からビッグプレーヤーを集めた。ウィンブルドンと同じ「貸座敷」である。

 製造業も同様だ。産業革命が起こった英国は今や主だった製造業はなく、EU統合ではドイツの脅威にさらされる。対抗手段が企業の誘致だった。

 日本から日産、ホンダ、トヨタ、重電・交通システムは日立といった具合である。英語が通じ、住みやすく、政府の後ろ盾も万全な英国は、EU市場を狙う日本企業にとってありがたい拠点となった。

「雇用と国際収支を改善してくれるなら企業の国籍は問わない」(サッチャー首相)と、英政府は貸座敷を充実させた。

 だが、離脱すれば「貸座敷」の魅力は薄れる。

 ホンダは「世界的生産体制の見直し」を理由に英国撤退を決めたが、Brexit問題と無縁とは思えない。

 英国にいるリスクを考えたのだろう。同じことがトヨタや日産にもいえる。今や製造業の時代ではないが、雇用問題を考えれば協力工場も含め、製造業の集積は無視できない。 

 金融では、英国が離脱すれば、シティに支店を出す域外の銀行・証券はEU業務ができない。金融業がロンドンからフランクフルトやパリなどに移り、英国にとって手痛い打撃になる。

 それだけではない。移動の自由や、関税・通関検査、輸送から空港業務など気が遠くなるような不便が生ずる。産業集積地としてロンドンの価値が下がれば、地価は暴落、ポンドも売られる。

 そこまで考えて、「国民投票」が当時、なされたわけでない。