再延期の意味は
合意なき離脱を回避しただけにすぎない

 メイ首相が保守党内の圧力で辞任に追い込まれなくとも、9月後半から10月には保守党大会がある。ここで党首交代の公算もある。強硬離脱派が党首に就任し、首相になれば、地方選後の場合と同様に、10月31日で合意なき離脱の可能性がある。

 メイ首相が続投したとしても、離脱協定案の議会での可決は見通せない。合意無き離脱回避のために、議会が現在の離脱協定案を可決することを期待したいが、今回EU側が離脱期限の延期をする保証がないにもかかわらず、協定案の可決に至らなかったことを考えれば、期限が延期されても同じことが繰り返される公算は小さくない。

 結局、現在の議会構成が変わらなければ、これまで同様多数の賛同を集める離脱の方針は得られにくい。ならば、総選挙を実施するしかないのだが、労働党が保守党より支持を集めている現状では、保守党政権が総選挙に打って出ると考えにくい。結局、離脱協定案を可決できずに10月末を迎えた場合に、EU側が3度目の延期には応じない公算もある。強硬離脱派が保守党の党首、首相になり、保守党が支持率を回復し総選挙に勝った場合には、やはり、合意無き離脱覚悟でEUとの協議に臨むだろう。

 労働党との与野党協議がまとまれば、離脱協定案は可決される。しかし、離脱後の関税同盟への残留といった穏健離脱派が多い労働党の主張を取り入れた合意となるだろう。その場合、協定案可決で辞任するメイ首相の後任となる公算の高い強硬離脱派が離脱後のありかたについて労働党との合意を反故にすることもありえる。それは十分に予期できる事態ゆえに、労働党もメイ首相との合意に慎重にならざるを得ない。

 今回の離脱期限の再延期の意味は、「目先の合意なき離脱をとりあえず回避したことだけ」(田中理・第一生命経済研究所主席エコノミスト)にすぎないと言えるだろう。