新聞の片隅に載る「首相動静」。
<4月30日午後9時12分、麻生太郎副総理兼財務相。11時9分、麻生氏出る>とあった。

 外遊から帰国した首相は、この日は皇居に赴き、明仁天皇の退位礼正殿の儀に参列し式辞を述べた。その夜、自宅に戻った安倍首相を、麻生財務相が訪ねた。

 政権トップ2人が私邸でさしで2時間の密談。何が語り合われたのか。

 週明け、安倍首相とは盟友であり、麻生派の重鎮でもある自民党の甘利明選対本部長は「メディアによると、麻生副総理は解散を進言したが、総理は言質を与えなかったとされている」と語った。

 うわさ話を伝えただけのコメントだが、「解散」という言葉を発した。政局の緊張をあおる政治的発言である。

 権力を握る2人が会ったとなれば、「解散」は話題になったのだろう。そして解散をするなら、その前に詰めておくべき課題が「消費増税の処理」だ。

 予定通り10月実施でいくのか。先送りするのか。その判断抜きに解散は語れない。そして麻生財務相は「消費増税実施」の責任者でもある。

 安倍首相はこれまで2度、増税の「約束」を破り、先送りした。その度に麻生氏は苦言を呈し、「次は必ず」と念を押し実施日を明示させた。「先送りするが必ずやります」とする政権側の「保証人」というのが麻生財務相の立場である。

 仮に、その当人が「増税先送り」が絡む衆院解散・衆参同時選挙を進言したとしたら――。

 政治家の約束など羽毛より軽いともいわれるが、吉田茂、岸信介という戦後に名を残す政治家をそれぞれ祖父に持つ2人が、平成が終わる夜に、有権者を欺くような謀議を行っていたとしたら、令和は暗い幕開けだ。

首相にとっては
「改憲」をかけた選挙

 とはいえ、安倍首相はきれい事を言っていられない状況だ。

 7月に行われる参議院選挙は天下分け目の戦いになる。

 憲法改正を旗印にする首相は改憲の発議に必要な3分の2議席を維持することが至上命題だが、生やさしいことではない。