「働き方改革」が喫緊の課題となっている。そんななか、プレッシャーが増しているのがプレイングマネジャー。個人目標とチーム目標を課せられるうえに、上層部からは「残業削減」を求められ、現場からは「仕事は増えてるのに…」と反発を受ける。そこで、1000社を超える企業で「残業削減」「残業ゼロ」を実現してきた小室淑恵さんに『プレイングマネジャー 「残業ゼロ」の仕事術』をまとめていただいた。本連載では、本書のなかから、プレイングマネジャーが、自分もチームも疲弊せずに成果をあげるノウハウをお伝えしていく。

「背伸び」することで人は成長する

 チームの生産性を下げる大きな要因として「属人化」があることを、本連載では何度も指摘してきました。「属人化」とは、特定の業務が特定の人物しか対応できない状況に陥っていることですが、これを放置しておくと、その特定業務を抱え込んだ人物の長時間労働が常態化するほか、その人物が病気になったり、両親の介護をする必要が生じたときに、チームの業務が破綻してしまうおそれがあるのです(連載第22回24回37回参照)。

 この「属人化」を解消する有効な方法に「ミニドミノ人事」があります。アウトドア用品メーカーであるパタゴニアが実践して有名になった「ドミノ人事」という人事制度の“縮小版”なので、「ミニドミノ人事」と名づけています。

 パタゴニアの「ドミノ人事」とは、多くのメンバーがドミノ倒しのように、ひとつ上の業務に期間限定でチャレンジするという人事制度です。たとえばマネジャーが長期休業する場合、その下の職位から能力のある希望者を選び、いまと同じ待遇のままでマネジャーの業務を担当させ、そのメンバーの業務をさらに下位のメンバーが担当するという具合です。これによって、「属人化」を解消するとともに、下位のメンバーの人材育成も行うことができるというわけです。

 ただ、日本で、この「ドミノ人事」を導入している企業は限られているのが現状です。そこで私たちは、マネジャーの権限において、チームのなかで「ミニドミノ人事」を実践することをおすすめしています。下図のように、「職位」を「年次」に置き換えて、「ドミノ人事」を実践します。

 たとえば、入社8年目のメンバーが育児休業に入る際に、彼女のやっていた仕事を入社6年目のメンバーが引き継ぎ、その入社6年目のメンバーの仕事を入社3年目のメンバーが引き継ぐ……というように、期間限定で先輩の仕事にチャレンジするのです。

 その結果、「属人化」をふせぐとともに、メンバーが成長することも期待できます。なぜなら、先輩の仕事を引き継いだメンバーは、それまでに経験したことのない重要な仕事を任されたり、上層部の会議に出席することで、経験値や社内人脈を広げることができるからです。

 この効果を、私自身、新卒で就職した化粧品会社で実感したことがあります。
 当時、経営企画室に配属されていたのですが、憧れの女性の先輩が育児休業に入り、「役員会議の議事録をとる」という仕事を一時的に担当させてもらえることになりました。役員会議で議論されている内容を聞くことができる業務は、まだ入社年次の浅かった私にとって、非常にエキサイティングな仕事でした。

 それまでは何も背景を知らず、単に会社のやり方に不満をもっているだけでしたが、会議で下される決定事項の背景に、どのような経営判断があるのかを理解する機会を得たおかげで、一段高い視点で考えられるようになりました。自分が組織の一員としてどう行動すればいいのかを考えられるようになったことで、視野が広がるとともに、モチベーションもグッと上がったことを覚えています。

 このように、誰かが休業したり、休暇をとるときは、実は人材育成のチャンスなのです。その機会をとらえて、多くのメンバーにこれまでより一段高い仕事を与えることによって、チーム全体の実力を底上げすることができるのです。