低価格機種ではこれまで日本市場向けスマホに当たり前のように付いていた、ワンセグ機能を省いたという。若者のテレビ離れが進むなか、スマホにワンセグが入っている必要がどれだけあるのだろうか。そもそも日本で一番売れているiPhoneには、もともとワンセグなど入っていない。シャープも主力携帯キャリアだけでなく、国内MVNO向け端末を供給しているメーカーであり、「量産型」を用意できる下地はあるはずだ。

 ただし日本メーカーの悪い癖は、ハイエンドは内製するのに廉価モデルは自社開発せずに、外部からOEM調達することが多いことだ。本気で量産型をつくっていないのだ。車の例だが、ホンダがかつて軽自動車という低価格帯製品の開発に力を入れていなかったとき、ホンダの軽自動車はグループ子会社に外注して開発・生産していた。

 ところが、ホンダ本体が軽自動車を主力ビジネスとして位置付け、自社で本格的に開発するようになると、ホンダの軽は日本国内市場の稼ぎ頭になった。もっと家電から離れる例だが、大手食品メーカーのレトルトカレーは高価格製品は数が少ないので外注して生産し、主力の100円以下の安い商品を最新の自社設備で生産している。

 ボリュームゾーンで本格的に戦うには、ボリュームゾーンこそ自社で力を入れて開発しなければならない。しかし日本の家電メーカーは、技術第一、機能・性能優先の呪縛のため、ローエンド、量産型製品の自社開発をやりたがらない。社内のリソースが有限だからだ。

ガンダム1機で戦争の趨勢が
変わったとは思えない

 限られたリソースは、常にハイエンド製品の開発に向けられる。これでは、量産型ビジネスで勝ち目はない。むしろ、ハイエンド製品こそ自社で囲い込まないくらいのことはできないのか。たとえばだが、ハイエンド製品は日本のスマホメーカーで共同開発をして、デザインや最終の味付けだけ各社で行う。その分浮いたリソースをローエンドの本格開発に振り向けられないだろうか。

 各国でファーウェイが敬遠される傾向がしばらく続くようであれば、今が日本メーカーに残されたグローバル市場再チャレンジの最後のチャンスかもしれない。世界中で売られているスマホの主力は「量産型モデル」である。

 ガンダム1機で、連邦とジオンの戦争の趨勢が変わったとは思えない。連邦の勝利はジムという量産型モビルスーツの開発に成功したからだ。日本メーカーの機能・性能優先のハイエンド志向を変革するリーダーが、現れないものだろうか。

(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 長内 厚)