戦争をなくすことを掲げる格安航空会社

 21世紀に入って大きな存在感を示している会社の多くが「ミッション」を明確に定義しているのは、このような世界において才能ある人材を集め、彼らの潜在能力を全開させるためには「意味」が重要だということを、彼らもまた理解しているからです。

 たとえばグーグルが「世界中の情報を整理し、誰もがアクセスできる世界をつくる」ということをミッションに掲げていることはよく知られていますし、スティーブ・ジョブズはアップルのミッションを尋ねられた際に「人間の知性にとっての自転車をつくる」と答えています(*6)。

 これはつまり「何のために存在する会社なのか」という「問い」に対して明確な「意味」を与えているということです。

 これはなにも、グーグルやアップルのような最先端のIT企業にしかできない、ということではありません。既存産業にあっても、自分たちの存在にユニークな意味を与えることは可能です。

 たとえば、LCC(格安航空会社)として独自の存在感を放っている日本のピーチ・アビエーションを取り上げてみましょう。

 全日空から転籍されたピーチの井上慎一社長と創業当時にお話しさせていただいた際、筆者からの「ピーチは何のために存在する会社なんですか」という不躾な質問に対して、井上社長は「よくぞ聞いてくれた」という表情をしながら、ゆっくりと「それは戦争をなくすためですよ、山口さん」と即答されていました。

 格安航空会社と世界平和とはそう簡単に結びつきません。当惑する筆者に対して井上社長は次のように説明してくれました。

「過去には日本とアジアの国々とのあいだで不幸な出来事がありましたね。ああいうことを二度と起こさないために、友達がいろんな国にいるという状態にしたいんです。そのためには若いうちからどんどん外国に出て、いろんな文化に触れ、たくさんの人と知り合ってほしい。ではどうするか? 財布の軽い若い人でも乗れて、いろんな国に行ける、そういう航空会社が必要なんです。ピーチはそれをやるんです」

 極めてわかりやすい「意味」です。この意味があるからこそ「コストを下げよう」「路線の数を増やそう」という経営上の課題に対してシラケることなく、創意と工夫を引き出すことができるのです。

 なぜなら「コストを下げる、路線を増やす」という「量的目標」に、ちゃんと「意味」が裏打ちされているからです。

 今日、苦戦が続く日本のLCC業界において「唯一の勝ち組」と言われるピーチですが、その勝因の1つは、井上社長の掲げる「意味」にもあると考えられます。

 先述した通り、「ヒト・モノ・カネ」の3つの経営資源のうち、「ヒト」だけにあって「モノ・カネ」にはない固有の特徴として「可変性」があります。

「モノ」も「カネ」もいったん量が決まってしまえば、それが後で変わることはありませんが、「ヒト」は与えられる「意味」の豊かさによって放出するエネルギーの量が大きく変わります。

 格安航空会社という、極めてシビアな経営資源管理が求められる業態において、「意味」を明確に掲げるリーダーによって率いられている組織が、他社を大きく凌ぐパフォーマンスを上げているというのは極めて示唆的だと言えます。

 企業の競争優位はコストやスピードなど、さまざまな要因によって形成されることになりますが、今日のように「意味」が枯渇している社会では、その組織が掲げる「意味」が、従業員や顧客を惹きつける競争優位の源泉、いわば「パーパスアドバンテージ」として競争を左右する要因となりつつあります。

 このような時代にあって、いたずらに売上や生産性などのKPIに代表される「乾いた目標」だけを掲げて叱咤するという、かつて日本において主流だったオールドタイプのリーダーは、組織からモチベーションも創造性も引き出すことができません。

 ニュータイプのリーダーは、仕事の背景をなす大きな「意味」を明らかにすることで、組織からモチベーションと創造性を引き出すのです。

(注)
*6 https://www.brainpickings.org/2011/12/21/steve-jobs-bicycle-for-the-mind-1990/

(本原稿は『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』山口周著、ダイヤモンド社からの抜粋です)