物事のあらゆる側面で宗教の影響が見られる
あなたの仕事がメーカーであれ、小売りであれ、不動産業であれ、世界の政治経済の影響なしに成立する仕事はありません。そして、政治経済の動きには、宗教が影響しているのです。
たとえば、アメリカの大統領選には、候補者がキリスト教のどの宗派の票を得るかが大きく影響していますし、アメリカの動向は世界の政治経済に影響をおよぼします。そして、多くの日本人が「現代的でカジュアル」というイメージを抱くアメリカは、実は世界でもトップレベルの宗教的な国家なのです。キリスト教についての知識がないとアメリカ人とのつき合いやビジネスは地雷の埋まった野原を歩くようなものになります。
また、日本人の多くは「中東には紛争が多いようだが、イスラム教はよくわからない」と漠然と捉えています。もしあなたが、「イスラムは遠いアラブの石油の国の人の話。自分にはあまり関係ない」と思っているなら、それは危険です。
なぜなら、今後、東南アジアはビジネスやインバウンドで日本とますます関係が深まっていくはずですが、マレーシアの国教はイスラム教ですし、インドネシアにも二億人以上のイスラム教徒がいます。また、ご存知の通り日本の石油輸入の多くはイスラム教徒が多い中東に依存しています。中東での混乱は、石油やガソリンの価格に跳ね返り我々の生活を直撃します。
さらに各種統計によると、出生率が相対的に高いイスラム教徒は、将来、世界最多の信者を持つ宗教となる可能性が高いのです。また、欧米で起こっているイスラム排斥の気運が排外主義的な政策を生み、EU各国の移民や難民の問題、イギリスのEU離脱などにもつながってきています。
すなわち、世界は相互に緊密につながっています。そして、このようなつながりが見えないと判断を誤ります。この緊密につながった世界を、イスラム教を知らずして理解することは不可能でしょう。
教養がある人はたいてい語学力も備えており、英語は今やビジネスの必須項目でもあります。そして「語学を学ぶにはその国の文化を学べ」といわれますが、国際語として使われている英語にキリスト教由来の言葉やフレーズが非常に多いことはよく知られている通りです。つまり、聖書について知っているだけで、英語を学ぶ上では大きなアドバンテージになります。
逆に言えば、欧米社会ではキリスト教について知らないと本当に評価される英語話者にはなれません。日本人の英語がなかなか上達しないのは、キリスト教への理解が不足していることが関係していると私は見ています。
さらに、西欧の音楽、美術、文学の多くは、キリスト教からスタートしています。なぜなら、キリスト教を普及させ、いかに人々を啓蒙するか、社会はキリスト教をいかに受け入れるのかといった葛藤が西欧の歴史をつくってきたためです。その目的で生まれたのが、音楽や美術なのです。カトリックの教会が描かせた数々の宗教画こそ西洋美術の一つの出発点ですし、西洋の音楽は賛美歌や聖歌が発展したものです。
また、「自分とは何か」「生きる意味とは?」という問いは古典文学や哲学からごく最近の漫画やアニメ映画にまで脈々と流れる不変のテーマですが、実はこれこそ宗教の誕生や宗教観と大きくかかわっています。