素人の会社に、シェア50%を奪われた日本の携帯電話会社

山口:私は2007年まで戦略コンサルティング会社で、携帯電話のプロジェクトをやっていました。2007年と言えば、iPhoneがデビューした年です。その当時の日本の携帯電話は、驚くほど似ていてどれがどの会社のものか分からない。

上下2つ折りで、サイズも同じ、ボタンのレイアウトもほぼ同じです。どうしてそういうことになったのかというと、マーケティングの教科書に書かれている通りにマーケットインというやり方を徹底して、正解を求めたからです。

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消費者調査で大規模な標本抽出を行い、それを統計の分析にかけて、出てきたデータからがどういう機能が求められるかという正解を出していった。同じ人に何が欲しいですかと同じことを聞いて、同じテクノロジーを使っているわけですから、正解を求めれば求めるほど、どの会社も同じ答えに行きつくことになります。

そういうところに、アメリカ西海岸のほとんど市場調査もやらない会社から、「こういうのがあったらカッコいいんじゃないか」と自分たちが良いと思う製品を作って提案されたら、ワーッと集まったわけです。

当時4兆円あった携帯電話市場の約50%を、新規参入してきた素人の会社にわずか3年で奪われるという、圧倒的な敗北を喫して、事実上ほとんどの会社が撤退していくことになりました。

極めて頭脳明晰な人たちが、正しく教科書通りにマーケティングをやって、正解を出したがゆえに、同質化の罠にハマってしまった。

重要なのは、需要側からは、正解は求められていないということです。「役に立つ」というのは、確かに価値なのですが、一方で「意味がある」という価値がある。ビジネスというのは必ず「役に立つ」か、「意味がある」かのどちらかの評価をされています。役に立たず、意味もなければ、製品として存続できません。