佐宗 理由はいろいろあると思いますが、いままでの日本はアメリカの真似をする「タイムマシーン戦略」で生きていけた国です。しかし、ここ数年で、日本社会はヨーロッパ化してきているのではないかとも感じています。ヨーロッパでは、山口さんのおっしゃる「役に立つ」よりも「意味がある」が生活の中に入ってきている。

ただ、スタートアップ界隈の人の発想は、世代によっても違っているのではないかと思いますね。僕と同世代くらいの人たちのなかには、最初に理念や思想をしっかり持ち、ビジョンを語ったうえで有機的な成長をしたいと考えている起業家も徐々に増えてきている印象があります。こういう流れは、シリーズAラウンドやBラウンドまで行っている企業にもけっこう出てくるのではないかという気がします。

【山口周×佐宗邦威】データ・確証がないと動けない…「エビデンス病」を抜け出す方法

制約を取り払うと「to be」が見えてくる

山口 少し話題を変えますが、すべてのビジネスの起点には「問題」があります。問題があるからこそ、ソリューションが求められる。ただ、問題が問題として成立するためには、「to be(あるべき姿)」と「as is(現状の姿)」という2つの要素がないといけない。「今はこうだけど本来はこうあるべきだ」というギャップが認識されて初めて、それは解くべき問題だということになる。

このうち、「to be(あるべき姿)」のほうは内発的に生み出されるものですから、妄想力が必要になります。妄想力がないと問題もつくれないんですね。問題がつくれないとソリューション能力がいくらあっても宝の持ち腐れでしょう。ですから、個人個人が「to be」をもつためには「妄想」の力が重要になるわけです。

佐宗 「to be」「as is」はそれぞれ「あるべき姿」「現状の姿」と訳されたりしますが、僕は「あるべき姿」という訳は間違いで、「ありたい姿」あるいは「実現したいこと」というふうにとらえたほうがいいと思っています。

分析脳で入っていくと「あるべき姿=正解は何か?」という発想になってしまいますが、そもそも「to be」には正解がない。だから多くの人はそこで立ち止まってしまいます。何が正解かではなく、「自分がどうしたいのか」という目線でゴールを考えていく力が必要なのではないかなと。

そのためには、いったん思考の制約を取っ払ってしまったほうがいい。たとえば、ワークショップや研修などでも、「3年間100億円もらえたら何をしますか?」という問いを考えてもらうといったエクササイズをやるようにしています。自分の考えている妄想のスケールを、「金額」というメジャーを使ってはっきりさせるわけです。そうすれば、「もっと大きく使うとしたら何をすればいいか」と妄想が広がっていきます。

先日、グーグル・ジャパンで「ビジョン思考」研修の機会をいただいたんですね。グーグルのような会社ですら、アルゴリズム思考を超えてどのようにテクノロジーを人間が使っていくのかという問題意識を持っている。これはとても意外でした。

グーグルでも「3年間で100億円」の問いを考えてもらったところ、「自分の考えていることを実現するには100億円では足りない!」という人がいた一方、管理職などの立場にある人は「私は15億円しか使えませんでした」と言っていたりして、とても盛り上がっていましたね。