どんなときにも裏口を作っておけ、必ず役に立つことがある。ロバートの言葉が浮かんだ。
「これからインターナショナル・リンクのビクター・ダラスに会いに行きます」
呆けたような顔で森嶋を見ている理沙に言った。
「なんで森嶋君がインターナショナル・リンクのCEOを知ってるの」
「時間のあるときにゆっくり話します。一緒に行きますか。でも理沙さんはあまり時間がないんでしたね」
理沙は森嶋の腕をつかむと、新聞社を飛び出した。
通りに立つと、伸び上がるようにして手を挙げた。
タクシーが2人の前に止まった。
理沙は森嶋を押し込むと、自分も乗り込んできた。
東京駅近くにあるホテルに入ると、森嶋はフロントの横にある喫茶室を見回した。
ダークスーツの男が座ったまま森嶋の方を見ている。
森嶋はダラスに近づくと、差し出された手を力を込めて握った。
森嶋は理沙を紹介し、椅子に座るなり話し始めた。
「あなたは葉山で私に会ったときも、テレビのインタビューでも言っておられた。自分たちに納得出来る経済対策が発表されれば、喜んで日本と日本国債のランクを上げると。あれは本当ですか」
突然の言葉にダラスは驚いた表情を見せたが、やがて頷いた。
「間違いありません。しかし、我々のアナリストが議論して、納得いくものであればということです。あなたが、今朝から世界に向けて出回ったテロもどきの情報について危惧しておられるのであれば、私たちは直接惑わされることはありません。だが残念ながら、あのようなブラックメールにも似た情報にも惑わされる人や企業も多い。まさにバタフライ効果にも似た現象が現われる。そうした愚かな現実によって影響を受ける金融機関、投資ファンドの動向は考慮します。つまり、あなたの国にとっては非常に不利な状況と言わざるをえません」
「と言うことは、明日の発表というのは、今日のデマの影響を受けているということですか」
森嶋はあえてデマという言葉を使った。ダラスに確たる反応は見られない。