閑古鳥が鳴いていた上海高島屋だけでなく、バンコクに進出する伊勢丹や東急百貨店など、アジアの主要都市で集客に苦労する日系百貨店は少なくない。人気を集めるタイ資本や中国資本の商業施設は、一体どこが優れているのだろうか?(ジャーナリスト 姫田小夏)
タイ資本のショッピングモールに
圧倒される日本の百貨店
「凋落する日系、台頭するアジア系」――そのコントラストが顕著に表れるのがバンコクの商業施設だ。伊勢丹、東急百貨店など日系百貨店が進出するも、今やタイ資本のショッピングモールにすっかり圧倒され、その存在感は薄い。
巨大な売り場面積と洗練された館内コーディネート、最先端ブランドの入店とその集客力でプレゼンスを高めるタイ資本の商業施設。経済成長とともに増え続ける「中間層」を惹きつける地元モールのキラーコンテンツは“食”だ。タイ資本のモールは、とにかく“食の演出”がうまい。
地下には気軽なフードコート、上階にはちょっとリッチなレストラン街――バンコクのモールでほぼ共通するレイアウトだが、タイ最大といわれるモール企業「モール・グループ」が運営する「エムクオーティエ」(エンポリアム2号店)の地下フードコートは、モール全体の中で最も人を集めるフロアだ。
バンコク最大の繁華街・スクンビット地区に立地する同モールの地下には、タイのローカルフードはもとより、インド、広州、潮州、香港などの、ありとあらゆる“アジアの味”がずらりと並ぶ。ホールの面積も広大で座席数も多く、内装もシンプルかつお洒落だ。
タイの1人当たりGDPは7187米ドル(2018年)と、中国の9608ドルよりも低いが、このフードコートの1食当たりの平均価格は100~200バーツ(1バーツ=約3.5円)と、日本のファストフード程度並みの食事代を払える消費者層が存在する。
同グループは、サイアム地区に立地する巨大モール「サイアム・パラゴン」も経営する。ここのフードコートは「バンコク最大」だといわれるが、文字通り“食のパラダイス”だった。その充実ぶりは「ありったけのエネルギーとアイディアと資本を投入したのでは」と思わせるほど。バンコクの市民はもとより外国人客も多いが、その選択はあまりにバラエティ豊かなので、誰もが“うれしい悩み”に頭を抱える。こんな巨大なフードコートは日本ではお目にかかったことがない。
同じ商圏には日系百貨店もあるが、規模の小ささや施設の老朽化による“見劣り”がとても気になった。フロア構成も“日本の伝統”を踏襲するが、果たして現地のニーズを反映したものなのかどうか。肝心な食のフロアも単なる“食堂の集合”に近い。日系百貨店といえば、かつては東南アジアの花形といわれた商業施設だったが、進出も早かっただけに、“売り場のレトロ感”は否めない。すでに撤退した店舗もある。