上海高島屋の店舗撤退発表から一転、営業継続を宣言した上海高島屋。しかし、今後これといったビジョンがあるようには見えない Photo:Imaginechina/JIJI

今年6月に閉店と清算を発表した上海高島屋が8月下旬、一転して営業継続を決めた。お客とテナントを振り回した末の「続投宣言」だが、今後の経営が軌道に乗るビジョンはあるのだろうか。(ジャーナリスト 姫田小夏)

撤退宣言から突然の「営業継続」
振り回されたお客とテナント

 今年6月、上海高島屋(高の文字は、正式には“はしご高”)は閉店と清算を宣言したが、それは一大ニュースとなって上海中を駆け巡り、利用者に大きな衝撃を与えた。ところが8月下旬に一転して営業継続をアナウンス。利用者たちが見せたのは喜びではなく、“白けムード”だった。

 上海高島屋が立地する古北新区に20年にわたって居住し、同店を利用してきた日本人女性・平川公子さん(仮名)は「上海高島屋の継続を手放しでは喜べません。上海の日本人の間では『これじゃ、“オーラス詐欺”みたいじゃないの』とまで言われています」と語る。

 オーラスとはオールラストの略語で、公演の最終日を示す用語。「これで見納め、最終公演!」という触れ込みでコンサートチケットをさばきつつも、「追加公演」があらかじめ決定している場合もあり、世の中ではこうした行為を“オーラス詐欺”と呼んでいる。

「日本人であれ中国人であれ、近隣に在住する人たちはみな、上海高島屋での買い物はこれが最後だと思って、たくさん買い物をしたんです。在庫処分で安くなった商品もあり、得した部分もありましたが、『店舗がなくなってしまう!』と必死な思いでの買い物は一体何だったのでしょう。完全に煽られたという感じですよ」(平川さん)

 上海高島屋に入居していた一部テナントも「混乱の巻き添えになった」と、悲痛な胸の内を語る。当然、テナントの中には次なる立地に移転を決めたところもあり、新店舗に対して払い込んだ保証金や発注した改装工事費など、すでに大きな支出が伴っている。同時に、テナントが商業施設から撤退する際には原状回復が求められ、経営者にはこれに対する費用負担が生じる。

 この一連の騒動を傍らで見てきた日本人経営者の大原治夫さん(仮名)は、「新規立地を探すのだって一苦労、従業員の契約解除や移転先での募集も容易ではありません。なじみの顧客を失うリスクもあり、テナントはどこも苦しい思い。継続はいいとしても、失った信用をどう取り戻すのでしょうか」とコメントする。

 8月25日、この日は上海高島屋にとって最終営業日となるはずだった。高島屋は上海政府系企業が運営するビルを賃借していたが、今年5月に賃料引き上げを持ち掛けられたため、「家主との調整がつかない」(高島屋本社)ことを理由に、幕引きを決めていた。

 ところが8月23日になって、高島屋のホームページには継続を通知するプレスリリースが突然掲載された。「家主からの支援及び上海市・長寧区の協力で、事業採算性が大きく高まる目途がたったため、清算を中止する」という一文からは、賃料の減免などがあったことが推測できる。また、高島屋によれば、「会計を国際会計基準(IFRS)に移行させる計画を進めており、これにより黒字が見込まれる」という。