「セルフ・アウェアネス(自己認識)」は今、「リーダーが伸ばすべき最大の能力」と言われている。実際に、リーダーシップだけでなく、就職や転職、キャリ ア構築においても、「セルフ・アウェアネス」という課題に向き合うことは、問題解決における必要不可欠なプロセスであると認識されている。そこで、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー EI〈Emotional Intelligence〉の感情的知性シリーズ最新刊『セルフ・アウェアネス 』発売を記念して、企業・組織における人材開発・組織開発研究の第一人者、立教大学経営学部の中原淳教授と、日本ラグビー協会でコーチングディレクターを務 め、リーダーシップに関する著書や監訳書を多数出版されている中竹竜二氏に、「セルフ・アウェアネス」の重要性と実行のヒントを語ってもらった。(構成/ 田坂苑子 写真/斉藤美春)

>>対談前編「リーダーほど、真の自分と向き合えなくなる理由」から読む

リーダーに必要なのは、「判断」ではなく「決断」

フィードバック迷子にならないための「自己決定力」

中原 セルフ・アウェアネスのためにフィードバックはとても重要ですが、他人からのフィードバックを聞きすぎて、フィードバック迷子にならないようにすることも大切です。最後に決めるのは自分です。自分で決めることが大事なのです。人はどんな結果であれ、「自己決定」することで幸福度が高まるという研究結果も出ています。でも、これまで自己決定したことがない人にとっては、けっこう難しいことだと思います。

 大学で教えるようになってよく感じるのですが、学生に「何でここに学びに来たの?」と聞くと、「これがやりたい」と学ぶ内容を自分で決めて来た学生は、本当に少ない。特に学びたいものはないが偏差値的にちょうどよかったとか、親に言われて、といった理由が大半です。そう聞いて私が学生たちに言うのは、「ここまでは仕方がないかもしれない。だけど、これからは自分で決めなさい」ということなんです。

 私たちも同じです。ここまで自己決定せずにきてしまった人も、もしかしたらいるかもしれない。でも、なるべく早い時期に自分で決めて、そして決めたことをやりきる、という癖をつけたほうがいい。自分で決めてやりきるほうが幸せになれることがわかっているのですから。

リーダーに必要なのは、「判断」ではなく「決断」中竹竜二(なかたけ・りゅうじ)
公益財団法人日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター、株式会社チームボックス代表取締役、一般社団法人スポーツコーチングJapan 代表理事。1973年、福岡県生まれ。早稲田大学人間科学部に入学し、ラグビー蹴球部に所属。同部主将を務め全国大学選手権で準優勝。卒業後、英国に留学し、レスター大学大学院社会学部修了。帰国後、株式会社三菱総合研究所入社。2006年、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。2007年度から2年連続で全国大学選手権優勝。2010年、日本ラグビーフットボール協会初代コーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチも兼務。2014年、リーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックスを設立。2018年、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。

中竹 その決定が正しいかどうかはわからなくても、まず自己決定するというアクションを起こすことから始める。その後、その決定がどうだったかを振り返る。それが徐々にサイクルになっていくといいですね。

中原 私は趣味で自己啓発本と言われるものを1000冊以上読んでいるんですが(笑)、それだけ読んで、数々の自己啓発本に書いてあることはひと言に集約できるとわかりました。「やってみろ!」。そのひと言です(笑)。結局のところ、「やってみろ!」ということしか書いていないんです。やってみて何が起こるかなんてわからない。だから、やって反応を待つしかないんです。

中竹 「決定すること」で言えば、「判断」と「決断」の使い方を間違えている人が非常に多い。新聞ですら間違えていることがある。私はその2つは大きく違うとずっと思っています。「判断」というのは「ジャッジメント(judgement)」、「決断」は「ディシジョン・メイク(decision make)」。英語でも全然違うわけです。

「判断」は過去のもので、「正しいか正しくないか」です。我々は窮地に立つと、つい「判断しなきゃいけない」と思ってしまう。でも「判断」の材料は過去のものであり、今、そして未来の材料はありません。我々がそこですべきなのは、「決断」なのです。「決断」とは、「正しいか正しくないか」ではなく、「強いか弱いか」、または「早いか遅いか」です。
 
 私自身、学生時代にラグビー部のキャプテンを務めていたとき、「判断」と「決断」にまつわる失敗をしたことがあります。2人の選手のどちらをレギュラーに選ぶか――がんばってきたベテランの4年生か、生意気な1年のルーキーか――で迷いまして、ものすごく時間をかけてどちらがいいかを比較検討したんです。

 これは「判断」であって「決断」ではなかった。少しでも早く決めてチームに馴染ませたほうがよかったにもかかわらず、「正しく決めるべき」だと思い込んでいた。でも「決断」は未来のことなので、何が正しいかなんてわからない。自分が決めた後にどれだけ頑張るかが大事なのに、そのことに気づいていなかったわけです。

 そのときの反省から、迷っている時間より、決断というアクションを起こしてやり切ること、すぐに修正をかけていくことのほうが圧倒的に重要だと痛感しました。中原先生もおっしゃったように、「決断」「自己決定」の能力を高めたかったら、とにかく数を増やすことです。人間は、6~8割くらい無意識的に物事を決めていると言いますが、そのときにいちいち、「自分で決めた」と意識するといいですね。そして振り返って、それが本当に正しかったかどうかを「判断」していく。「決断」の後は「判断」、そして「フィードバック」を経て、もう1回チャレンジする。このサイクルしかないな、と改めて思いました。