おどろくべき中華料理店の注文集中戦略

もう一度、このラグビーボールのキャッチコピーを見ていこう。

「ルイ・ヴィトンとダン・カーターがデザインした限定ラグビーボール」
 出典:ルイ・ヴィトン公式オンラインストアHP
 
 このキャッチコピーにこそ、実は売れる秘密がある。
 何気なく見過ごしてしまう見慣れた2文字、そう「限定」が、その答えだ。

 収入の多さ、少なさにかかわらず、誰しもが「得」をしたい。「損」をしたくない。
 そのために、支払いを決断する瞬間、迷いが生じる。
「今買う」理由、「後で買う」言い訳を行ったり来たりする。
 その迷いを断ち切るのが「限定」なのだ。
 
 30万円のラグビーボールだと極端例なので、身近な例を紹介しよう。

 筆者がランチによく利用する中華料理店はメニューが豊富で、50名入る店内はいつもにぎわっている。
 席につくと豊富なメニューとともに、1枚メニューが提示される。
 いわゆる「おすすめ」というものだ。
 通常のやきそば、ラーメン、定食に一工夫加えただけのメニューが日替わりで提供されるだけだが、変わらないコピーが必ず表記されている。

「20食限定!」

 のコピーが誇らしく掲げられている。
 短すぎて、これがコピーとは気づかないかもしれない。
 しかし、その効果は絶大で、客は競うように「限定メニュー」を注文していく。

 日頃から様々な業種のマーケティングに目を光らせている筆者は、ここで、ある不思議な現象を発見する。

 「この20食限定のメニュー、まだありますか?」と売切れを覚悟し、おそるおそる聞くと、店員は自信を持って「はい大丈夫です」と答える。

「よし、20食限定の前に間に合った」と得な気分で店内を見回していると、50名席の客ほとんどが限定メニューを頼んでいるではないか。

「20食限定」のはずが、その上限を大幅に超えて提供されている。
 つまり、こういうことだ。

「20食限定」は限られた在庫のための表記ではなく、客を焦らせ、早く決断させるための戦略だったのだ。

 豊富なメニュー対応に追われるより、確かに一品に集中する調理オペレーションのほうが、厨房も効率的なはずだ。

 この「限定」の2文字。掲げる労力は少ないが、その見返り効果は絶大だ。
 その効果を際立たせる3つのテクニックを詳説しよう。