伝統は革新の連続
それは人も企業も同じ
対照的にヴィトンやエルメスといったフランスの老舗ブランドは、決して顧客迎合主義ではない。
あくまで自らの哲学、信念を貫こうという姿勢がある。
老舗だからといって創業以来、何も変えていないわけではない。
頑固に曲げない信念が6割だとしたら、残り4割は時流に応じて臨機応変に変える。
そのさじ加減が絶妙なのだ。
ヴィトンはパリに本店を構える旅行用トランクの専門メーカーだった。その後、時流の変化に上手に乗りつつ、トランクメーカーの枠組みから大きく越境する成長を遂げている。
代名詞であるLとVを組み合わせたモノグラムと呼ばれるマークは、19世紀のパリ万国博覧会をきっかけに、かの地で湧き起こったジャポニズムに影響を受けて、日本の武家の家紋に触発されて生まれたという。
こうした発想の柔軟性こそ、時代を超えて企業が存続するために不可欠なのである。
ご存知のようにエルメスだって、もともとは馬具メーカーである。
乗馬が廃れて馬車の時代が終わり、ハイブリッドカーが走り回るようになってもエルメスが愛されているのは、乗馬と馬車の衰退を見越して、バッグやサイフなどの皮革製品を中心とするファッションブランドへの脱皮を早期に果せたゆえだ。
現代まで生き残っている日本の老舗も、曲げない信念とトレンドに応じて臨機応変に変える部分のさじ加減が見事である。
その好例が、和菓子の老舗「虎屋」だ。
虎屋の創業は室町時代の京都にまで遡る。明治時代に京都から東京へ移り、480年以上暖簾を守っている。
虎屋といえば「羊羹」が有名だ。
老舗の羊羹と聞くと、門外不出のレシピを頑なに守っている創業以来の味に違いないと思いがちだが、実際には、レシピは微妙に変えているそうだ。
信念として守っているのは、「少し甘く・少し硬く・後味良く」という3つのポイントで、それ以外は時代に合った味に変えている。
伝統は革新の連続である。
そこに哲学という軸がなければ、時流に翻弄されて波間に消えていくのみ。
それは人も企業も同じなのである。