10月から消費税が10%へと増税された。今回の増税で消費者を大いに戸惑わせているものが、初めて導入された「軽減税率」、飲食料品や新聞の税率を例外的に8%に据え置くという措置だ。状況によって税率が変わることへの戸惑いもさることながら、改めて、なぜこの2つが対象として選ばれたのか、その妥当性について疑問に思う人も多いだろう。そこで本稿では、神戸大学の横山諒一氏に、神経経済学の観点から分析していただいた。

「軽減税率」の決まり方に今ひとつ納得感がない神経経済学的理由Photo: Adobe Stock

「生活必需品」と「贅沢品」は区別できる

 令和元年秋。ついに軽減税率制度が始まった。増税に伴い、低所得者への税負担を軽減するための制度である。

 今回は、
●飲食料品
●新聞
に対して、軽減税率の設定が行われた。

 しかし、この「飲食料品」と「新聞」というチョイスは、一体どうやって決まったのだろうか? 低所得者のためなのであれば、重要なのは「生活必需品」なのではないだろうか。

 そもそも「生活必需品」とは何か? パッとその定義が頭に浮かぶだろうか。

 実は「生活必需品」と「贅沢品」を区別する方法には、こんなものがある。

生活必需品:給料に左右されずコンスタントに購入するもの。
贅沢品:たくさん給料をもらったら購入するもの。

 この分け方は、「所得弾力性」という指標を使ったものである[1]。政策などに用いられ、最も知られている生活必需品と贅沢品の区分方法だ。物品一つ一つに対して、経済指標から数学的に算出できる。

 なるほど、生活必需品か贅沢品かは経済学的・数学的にも定義できるのか。そう思われた方もいるかもしれない。

 しかし、実際の生活では、ヒトはあらゆる物品に対し直感的に「これは『生活必需品』。あれは『贅沢品』」と判断している。つまり、判断は一人ひとりの脳やこころ次第なのだ。その判断に必ずしも経済理論は存在しない。

 こうした一人ひとりの脳・こころの働きに着目して、この必需品・贅沢品の判断について考えてみたら、どうなるか。これが今回のテーマであり、その際の学問的枠組みが神経経済学だ。

 神経経済学。それは、経済学的な問題に対して「脳・神経科学」的にアプローチする方法だ。「必需品」か「贅沢品」か? 軽減税率が始まった今、それを神経経済学的な発想で見ていこう。

[1] N. グレゴリー. マンキュー, マンキュー入門経済学: 東洋経済新報社, 2008.